からっぴ

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「なあ、今って、冬かな」
「知らん。まあ暇だし、ちょっと資料を漁ってみるよ」
 未知の惑星を探査する宇宙飛行士にとって、その惑星の環境は死活問題だ。ピーク時にどれだけ暑くなるか、それとも寒くなるのか。それがどれくらいのペースで変動するかさえ、惑星によって完全に異なる。そんな環境下でも人力での探査が可能なのは、全自動で動作する環境適応スーツのおかげだ。
「そのあたりのことは学者に任せて、うちらはデータだけ持って帰るのが仕事だろうに」
「うん。だけど、それじゃあ困ることがあってさ」
「そりゃ難儀な困り事だな。何事だ?」
 キーボードを叩く同僚の横で探査員手帳を取り出し、裏表紙をめくる。そこに貼られていたのは、手帳の持ち主ともう一人の誰かが写った一枚の写真。
「記念日、ってことか?」
「地球を発つ日、約束したんだ。どんなに遠く離れても、そこに多少の心の隔たりがあったとしても、二人が出会ったときのように雪の積もった冬の日だけは、一緒にお互いのことを想う、って。妥協を感じる約束だけど、破るわけにいかない」
「妥協、ね。いや、案外そうでもないかもよ?」
 調べ物を終えた同僚が、画面を指差し笑い始める。
 地球の学者によって作成された、この惑星の気候変化のグラフだ。
「端から端まで、冬季じゃないか!」
「この惑星の地面全部、黒ずんだ積雪だとさ」
 二人の間に、妥協の日などなかったのだ。
 それがわかってひとしきり笑った後、あることに気づく。
「その恋人、なんでこの惑星の気候を知ってるんだ?」
 同僚の疑問に、はっとする。その後、恥ずかしそうに口を開いた。
「地球で学者やってるからだ。宇宙研究所、所属は……南極支部」

12/18/2024, 11:17:50 AM