波にさらわれた手紙
放課後。僕は女子生徒に呼び出され、校舎裏へ来ていた。僕たち2人以外に人の気配はなく、これから告白でも始まるかのような雰囲気である。しかし、これが告白でないことを僕は知っている。
「私の代わりにこの手紙をハヤトくんに渡して欲しいの! 君って彼と仲がいいでしょ? お願い! 」
「わかった、代わりに渡しておくね」
「ありがとう! じゃあ私は行くね! 」
そう言って女子生徒は足早に去っていった。ハヤトは僕の友人で、顔が良くて運動神経もいいイケメンなのだ。そして、今回のように、彼へのラブレターを代わりに渡すように頼まれるのも、今回が初めてじゃない。
今のところハヤトは受けた告白を全て断っているらしいが、今回の子は僕たちの学年でも有名な可愛い子だった。
今回こそはあの子と付き合うのかな、なんて考えながら校門まで向かえば、先に校門で待っていたハヤトが声をかけてくる。
「おーい! なんだよ、告白かぁ? このこの! 」
「そういうんじゃないよ」
「本当かぁ? このモテ男! 」
モテてるのはお前だろ。さっきの女子生徒に呼び出された時、ハヤトも一緒にいたことから、その話題でいじられる。
「本当にそういうのじゃないんだって」
ほらこれ。と言ってカバンから可愛らしい封筒を取り出し、ハヤトに渡す。
「今回も残念ながらお前宛だよ」
「えー、俺はどちらかと言うと、直接貰いたい派なんだけどなぁ」
「貰えるだけありがたいと思えよ」
手紙を受け取ったハヤトは、とやかく言いながら封筒を開ける。中から手紙を取り出し開く。その瞬間、突風が吹き、彼の手の中にあった手紙が吹き飛ばされてしまう。
「あ! 」
風に乗った手紙は、そのまま流されていく。それを二人で追いかける。ひらりひらりと舞う手紙を二人で必至に追うが、手が届く気配はない。気付けば、学校近くにある海へと来ていた。
手紙は海の上まで飛ぶと、そのまま海の中にポチャリと落ちた。海に落ちた手紙は、そのうちに波にさらわれてしまい、遠くまで流されてしまった。
「あーあ、これはもう流されちゃったね」
「あの子に悪いことしちゃったな。あの子に謝らないと」
「いや、いいよ。俺が自分で行くから。でも、波に流されて逆によかったかも」
「え? 」
衝撃の言葉に思わず顔を見る。
「俺、今は恋人とか作る気もないから、告白とか全部断ってるんだけどさ。ラブレターとか心の籠ったものを貰うと処分しにくくて困ってたんだ」
「そうだったんだ……」
「そうそう! 今はお前と遊んでる方が楽しいから。あ、今度からは、代わりにラブレター渡すとかも断っていいからね」
思わず小っ恥ずかしいことを口走る友人に、照れて顔が赤くなる。彼への恋心を抱いている女の子達には悪いが、友人である自分を取ってくれたことが嬉しい。
「まぁ。僕も今はお前と遊んでる方が楽しいかも……」
「え! マジで?! 俺たち相思相愛じゃーん! 」
いつまでこの関係が続くのかは分からないけど、10年後も一緒にいられたら、きっと楽しい。それだけはわかった。
8/3/2025, 6:34:02 AM