『君と出逢って、』
窓から見た空は快晴で、それがなんだ息苦しくてカーテンを閉めた。
電気もつけず、陽の光を阻まれた部屋は小さな監獄のように薄暗く冷たかった。
ベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見上げる。
昔は白さが眩しかったが、今ではどこか灰がかってて霞んで見えた。
寝返りを打つと背中がぎしりと軋む。油の足りないロボットのような不器用な音が響く。
体が酷く重かった。もう起き上がる気力も残っていない。お腹が情けなく鳴るが食欲はない。
目を閉じて布団に体を沈ませる。
ゆっくり体が溶けていく。
空っぽの脳内に君を思い浮かべる。
君はさらりと長い黒髪を潮風にたなびかせて、波打ち際に座っていた。寄せては返す波を何を考えているのか分からない表情で見つめている。
僕は君の横に同じように座る。
陽の光に白く透けた素足に細かな砂がまとわりついている。その砂さえもキラキラと反射して眩しい。
もうすぐで陽が落ちる。
遠くの水平線に向かって太陽がゆっくり沈んでいく。僕はもう少し待ってくれと願う。
もう少し、あと少しだけ。
黄昏時、その茜色に照らされた君がどこか遠くに感じた。君の長いまつ毛は眩しそうに伏せられている。
無情にも、陽は止まることなく沈み続ける。
空がだんだんと青みを帯びて、夜に食べられていく。
夕焼けで1番眩しいとき、それは太陽が水平線に沈み切るその瞬間だ。
いつもその輝きに目が離せなくなる。
そしていつも、気づいた時には君は消えている。
ゆっくり目を開ける。
君のいなくなったこの世界にはもう何も無い。
頬と枕が湿っている。ぼやけた視界の中で、右手を強く握りしめて感触を確かめる。
開いた手の中は空のままだった。
どこからか潮の匂いがする。波の音も聞こえる。
それでも、君の気配だけがない。
君と出逢って、それで、そのせいで、僕はもうどこにも行けなくなってしまったみたいだ。
2026.05.05
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5/5/2026, 10:35:33 AM