「アイツを始末しろ」
今まで色んな人間に仕えてきた。社会のウラにもオモテにも、数え切れないほど触れてきた。
都合の良い解釈で伝えられて、当たり前の様に“命令”をこなしてきたけれど、結局はお人形だ。
自分では考えない、リードされないと動けない操り人形。
用済みになれば、次に“回される”。ずっとこんな生活が続くんだと思っていた。
自分の意思なんて知らないから。
この世に生を受けてから、これが楽な生き方だから。
「次の祝賀パーティーでアイツのワインにこれを仕込むんだ。」
沢山の絵に囲まれ、絵の具やら、鉛筆やら、とにかくカラフルな主人の部屋。その真ん中で、比較的仕込みやすい薬を渡される。
「はい。御主人様。」
待ち侘びたその日。
メインホールで私は踊っていた。
-アイツはお前のような女を好む。所詮女好きだからな。大人しく座っていろ。勝手に罠に嵌りに来る。-
男は腰に手を置いて、囁いた。
「貴方は人形のようだ。私の芸術は何も絵だけではない。君のような完成品を更に飾ってあげよう。このような姑息な真似をするのは、きっとあの俗物だろ?
君の失踪をもって教えてあげよう。どれだけ姑息な真似をしようと、私の芸術は不滅だと。」
洗脳ではなかった。初めての自分の意思。愛される人形に、その願いを持ち、叶えて貰える。
「貴方様の為でしたら、私はいつまでも踊りましょう。御主人様。」
10/4/2022, 3:09:31 PM