Ryu

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夕暮れの神社で別れを告げた。
どこに行っても友達だよなと、強く拳を握りしめる。
ずっとうつむいたままのお前。
どれだけ強がってみても、海を渡ったら別世界だ。
一緒に上級生をぶっ飛ばそうと約束した夏はもうとうに過ぎて、枯れ葉舞う季節に俺達はお別れする。

大人の都合でしか、俺達の住む場所は決められない。
振り回されて、やっと気の合うお前に出会えたと思ったら、今度は海の向こうへと引っ越してゆく。
こんなんじゃ、一生の友達なんて作れやしない。
でも、お前とだけは、もっとずっと一緒にいたかったな。
何をやってても楽しくて、生きてるって実感出来て、周りの奴らには呆れられてバカにされても、俺達二人が笑っていられれば、それで良かった。

「スマホ、買ってもらえそうか?」
「ムリだよ。姉貴だってまだ交渉中なんだから」
「LINEとかって使えれば、いつでもダベれんのにな」
「文字ヅラで話して何が楽しいんだよ」

肩組んで二人で撮った写真。
親父にデジカメで撮ってもらって、写真サイズでプリントしてもらった。
それをそっと、境内の社の中に隠し入れる。
ずっとここに、俺達の思い出が残り続けるように。
俺達が大人になっても、こんな時代があったことを忘れないように。

「じゃあ、行くわ」
「俺があげた遊戯王カード、持ったか?」
「いらねえよ。俺の方が強いし」
「ふざけんな。俺の方が2勝してんだよ」

よく言い争ったけど、喧嘩はしなかった。
お互いに、似た者同士だって気付いてたのかもしれない。
クラスで孤立して、学校で孤立して、上級生に睨まれて。
別にお前の家庭の事情なんかどうでも良かったけど、母親が家を出てったと聞いた時は、何とか笑わそうと必死になった。
俺に出来るのはそれくらいだったから。

「バイバイ」
「ああ、向こう行っても元気でな」
「上級生相手に無茶すんなよ」
「お前がいなきゃ…何にも出来ねえよ」

海の向こう。
定期船に乗って、片道約30分。
彼らが中学生にでもなれば、一人で船に乗っていつでも会いに行けるだろう。
でも、今は小学生の彼らには、海の向こうは別世界なのだ。

枯れ葉を踏んで、境内を駆け出す。
あいつに背中を向けて、この涙に気付かれないように。
遊戯王カードは、しっかりポケットの中にしのばせて。

2/19/2024, 3:59:43 PM