夢を見たことは誰にでもあるだろう。
昔は漫画家になりたかった。かっこよくて綺麗な女の子が主人公の漫画を描いて、有名になりたかった。
小さい頃に読んだ漫画に憧れて、という簡単な理由で私の夢は決まった。
夢中で絵を描いた。プリントの裏、チラシの隅、百均で買ったノートを一冊丸々絵で埋めた。そして、大きくなって持たせてもらったタブレットで、デジタルイラストも描き始めた。それはとても楽しい時間で、夢を見るようだった。ここに私の漫画があった。
だが、夢は現実には叶わなかった。
部活で入った漫画研究部には、私より上手く絵を描ける人間が大勢いた。楽しみで入った漫画研究部は、突然居場所のない針の筵のように変わった。そして、色々な画法を使えるタブレットを通じて知った電子の世界には、私より、漫画研究部の人達より、遥かに画力もストーリーもある人物が絵を描いていた。それも、趣味で。片手間の暇つぶしで描いた落書きが、バスって日の目を見る。そんな光景が当たり前のように広がっていた。
その現実を知った時私はスマホの画面から目を離せなかった。感動ではなく、敗北感だった。
私の絵を比べた。比べたくなかったが、比べてしまった。
バランスがおかしい。
色の配色がおかしい。
有名漫画家のキャラと同じようなキャラ。
よくあるストーリー。
突出したもののない、非凡な漫画。
好きだからこそわかってしまった。私には漫画の才能がなかった。その現実を、自分でも驚くほど私は理解した。いや、ネットに投稿し、誰にも見られず消えていく自分の投稿を見ている時から、察していた。
いつの間にか、ネットに投稿するのもやめ、人前で絵を描くのはやめてしまった。
だが、不意に、無性に描きたくなる時がある。
頭に浮かんだキャラクターが喋り出す。どこか遠くの異世界の光景が浮かぶ。現実の綺麗な景色を見た瞬間、これを描きたいと思う。
それは長年描き続けた絵を描くのが好きという感情だった。夢は諦めた。だが、絵を描くのはやめられなかった。
一人、部屋で誰も見せないフォルダに、イラストがまた一枚増える。描き終わった時に思うのは、達成感と、ほんの少しの胸の痛み。私の絵は誰の心にも響かない。
夢を見る心はもう死んでしまった。
現実に、殺されてしまった夢が、まだこのペイントアプリの中でわずかに息をしている。まだ死んでいない夢が、私を動かす。
私は今日も、誰にも見せないイラストをデジタルペンで描いている。
4/17/2024, 4:57:28 AM