「答案用紙はやっぱり、ちぎって紙吹雪にするか紙飛行機にしてとばすにかぎるよなあ」
高宮早苗はそういうと、期末試験の答案用紙の束を抱えて渡り廊下の方へと去っていった。さすがに校内にゴミをまくのはどうかと思うので宮川翔吾は大きくため息をついたあと早苗をとめた。
「やめとけ。するなら自分の家でしろ」
「ええ。青春1ページにふさわしい光景になると思うんだが、だめかい?」
「その青春はあとで職員室で徹底的にしぼられるがセットだろ。お前は楽しいかも知れないけど俺にとばっちりが来る」
翔吾は早苗の肩をひっつかんでずるずると引きずりながら教室に戻った。早苗は大人しくされるがままで、「そっか~」といいながら引きずられていた。
「答案用紙を風に乗せてとばすのは面白いことだと思ったんだけどなあ」
「面白くはあるかもしれねえけど、その分面倒だからだめだ」
そう。面倒だ。それなりに仲のいい担任が疲れた顔をして紙吹雪や紙飛行機を回収する姿を見るのも。ちゃんと見張っとけと何故か保護者扱いされて怒られる自分のことも。職員室に呼び出されて怒られている早苗を見るのも。
何もかも面倒だ。面倒なことはしないに限る。
「え~。じゃあ他に何かある?」
引きられる早苗はそんなことをいいながら紙の束をいじる。どうもこの答案用紙を何かしら活用しておもちゃにするか捨てたいようだ。誰にも見せたくないのだろうか。成績は悪くなくそれなりに良い点数が書かれているのに。
「……帰るぞ」
翔吾は教室の扉をあけたあと、鞄を早苗に押し付けてそういった。早苗は急に鞄を渡してくる翔吾に「え? 何?」と首をかしげている。
「やりたきゃ俺んちでしとけ。それなら誰も文句言わねえよ」
そういうと、早苗は一瞬、パチ、と目を瞬かせた。そのあとすぐにニヤっと楽しそうに歯を見せて笑った。
「いいじゃないか! ならさっそくショーゴくんの家に向かおう!」
答案用紙の紙飛行機は風に乗ってそれなりに遠くまで飛んだ。
4/29/2023, 10:44:13 AM