Open App

  
 君のベッドには水色の鯨が寝かしつけられていた。
 持つと綿の重みでグニャリと傾き、伸縮性のある布で、もちもちしている。抱き枕として最適なぬいぐるみだ。

「ベッドに先客がいるんだけど?君がぬいぐるみを持ってるって初めて知ったよ」
「あなたが来る時はクローゼットにいれてるから。その子は『特別な存在』なの。苛めないでね」

 君の特別。ぬいぐるみをむぎゅうと抱き締めると君の香りが。香りが移る程、ベッドを共に過ごしている訳だ。ぬいぐるみを抱いて寝る姿は愛らしいが、俺以外と…。なんて布の塊相手に幼稚な嫉妬を向けた。

「俺も『特別な存在』だろ?」
「急に対抗するの?」
 俺だって君の香りに包まれたい、移るくらい一緒にいたい…!が本音。仕事であっちこっち飛ぶものだからすぐにかき消えてしまう。
「チガウノ?」とぬいぐるみを動かして君の出方を待つ。
「そうだけど。この子の抱き心地がね、あなたにそっくり」
「こんなもっちりしてるかな…」
 余分な脂肪は落としているつもりが君にとってはまだまだとは。自身の一応は摘まめる肉をどう引き締めたものかと考えると
「抱き締めた時にほっとするところがね。もちもちは私の趣味」
「なるほど」

 一先ずは安心だ。ぬいぐるみを持ったままベッドに寝転がった。
「君の特別な抱き枕が2つもある。どちらをご所望かな?俺か鯨か」
 手招きすると君は無理やり、俺とぬいぐるみの間に入り込んできた。

3/23/2023, 11:29:49 PM