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 「何度目だと思う?」
 今回ばかりは目を瞑らなかった。腰に手を当てて、いかにも怒っていますよと態度に表す。彼はそんな私を見て一瞬だけ別の表情を出したあと柳眉を下げていく。まだ叱ってはないけど叱られた後の子犬の様な顔。
 悪いことをしたのは彼のはずなのに私が悪いみたいになる。

 私の首という首には赤い痕がいつも残っていた。首から始まり、手首に足首。痕、痕、痕…。虫刺されで誤魔化しようもない。服を着ても、カーディガンを羽織っても見えてしまう。ファンデーションも塗ったところで服に着く。もう真冬じゃないからタートルネックを着たところで場違いになる。

「『それでいい』訳があるなら聞きます」
「…可愛いから、つい」
「つい…」
 つい、調子に乗ってしまうのだとか。自分のものだと視覚的にも認識したいし痕を見て恥じらう私を見たい等々。言い訳じゃなく痕をつける理由を散々聞かされ、しまいには付けた時の反応を痕に触れながら説明してくる。そういうことを聞きたいんじゃない。

「私は、怒ってるの…!外に出られないでしょ」
 人と会う約束をしていたのだ。
「そのためだよ。君が約束してる男に見せつけるため」
「私…」
 私は人に会うと伝えていたけど男に会うなんて一言も言ってない。疚しいことをするつもりはなく、彼のことを相談するつもりで…。

「このまま俺に愛されましたって見せてくる?それとも俺が断ってこようか?」
 主導権が彼に渡ってしまった。相談相手は何事にも動じない人物だが私が無理だった。こんな姿で外に出られないし、もう諦めて手紙で相談するしかない。

「最初から外に出すつもりないんでしょ…」
「ふふっ、悪いね。すぐ戻るよ」

 出掛ける彼を見送ると私の怒りも一緒に出ていったみたい。全部手のひらの上、私が諦めることも、こうなる事も。彼にはやっぱり敵わない。


4/4/2023, 11:31:34 PM