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『空に向かって』『桜』『好きだよ』



 ウチの高校には伝説がある。
 ご多分に漏れずベタなもので、それは『満開の桜の木の下で告白すると永遠に結ばれる』というもの。
 『意中の相手を呼び出して告白すれば晴れてカップルとなる』、そんなありふれた伝説。
 あまりにも陳腐で、使い古され、そして俺たちの心を惹きつけてやまない伝説だ。

 でもこの伝説、謎なところが多い。
 伝説こそありふれたものだが、桜がある場所がすごく特殊なのである。

 何を思ったのかこの桜、グランドの端にある切り立った崖の上にある。
 この学校は山を切り崩したところに建てられているのだが、その時たまたま残ってしまったのがこの桜らしい。

 そういった経緯なので、まともな手段ではこの桜の所に行くことは出来ない。
 崖を登るには高すぎて危険だし、回り込もうにも山の反対側から道なき道を登ってこないといけない……
 近くて遠い桜であった。

 こんな危険な場所に行けるわけがない。
 なので伝説は嘘っぽいのだが、生徒の中ではそれなりの信憑性を持って噂をされている。
 なんでも卒業生の中に、伝説の桜の木の下で告白した猛者がいるとか。
 その二人は晴れてカップルになり、『本当の愛があれば問題ない』と

 そんな事を思いながら、俺は今、崖の前に立っていた。
 もちろんこの崖の上の桜の所まで行き、気になるあの子に告白するためである。
 共通の友人を通じ、脈があることは分かっている。
 この呼び出しもOKを貰っている。

 告白の前には根回しが重要。
 これぞ恋の秘訣。
 もはや成功したも同然であった。

 だがもう一つ解決すべきことがあった
 空に向かってそびえ立つ、岩肌がむきだしの崖……
 一般的な男子高校性の俺に、この崖を登る技術は無い。
 だが俺には秘策があった。

 登れないなら飛んでいけばいいじゃない。
 俺は貯金をはたいてヘリコプターをチャーターし、空から行く事にした。
 もちろんパイロット付き。

 そんな感じで特に苦労もなく(財布は大打撃だが)崖を登ることに成功した俺。
 あとは彼女が来るのを待つだけ。
 だがその時、俺はとんでも無い事に気づいた。

「彼女、どうやって来るんだ?」
 自分がどうやってここに来るかを考えていたばっかりに、彼女の事をまったく考えてなかった!
 俺だけ来ても全く意味がないじゃないか!
 浮かれ過ぎて、彼女の事が頭からすっぽり抜け落ちていた

 今気づいても、もう遅い。
 もっと早く気づけば、彼女に確認を取れたのに!
 俺って本当にバカ!
 自己嫌悪に陥っていた、その時であった。

「待った?」
 なんと彼女がやって来た。
 一瞬山を越えて来たのかと思ったが、彼女は涼しい顔をしている
 とても道なき道を進んできたようには思えない。
 俺は信じられない光景を前に、心に浮かんだ疑問をそのまま口にする。

「どうやって来たの?」
「どうやってって、そりゃあ……」
 彼女は後ろを指さした。
 そこには扉が――ちょうどエレベーターみたいな両開きの扉があった。

 ……エレベーター?

「これに乗って来たんだけど……
 もしかして知らなかった?」
「知らなかった」
「まあ、知る人ぞ知るってやつだからね。
 エレベーターが無かったら私も来なかったな。
 昔、崖を登る生徒がいたから作ったらしいけど――

 でも、君は知らなかったんだよね?
 じゃあどうやって来て――うわ、ヘリコプターがある!」
 俺が乗って来たヘリコプターに気づいて驚く彼女。
 彼女は目を丸くし、まじまじとヘリコプターを見つめていた。
 そりゃ驚くよね。
 エレベーターで来るのが正攻法だもん。

「ひえええ。
 告白するのに、まさかヘリコプターを使うとか。
 私、愛されてる!」
 楽しそうに笑う彼女。
 そんなに喜んでくれるなら、俺も勘違いした甲斐があったものである
 もっとも顔から火が出そうなほど恥ずかしいけどね……
 俺が羞恥に耐えていると、彼女はクルリと振り返った

「じゃあ、そろそろ告白してくれる?
 『好きだよ』って言ってくれればすぐOKするから」
 そして彼女はもう一度、ヘリコプターに振り返った。

「そしてすぐにデートに行きましょう。
 初デートが空って素敵よね!」

4/6/2025, 1:47:34 PM