糸花

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〝お祭り〟

久しぶりに帰ってきた。車がないから居ないのかと思いながらも、玄関の引き戸へ手を掛けて開くことに、「田舎ヤバいな」と男は顔が引きつった。

小さい集落。どこへ行っても知ってる顔と、知られてしまってる歳。密な人間関係が嫌になり、就職をきっかけに都会へ行った。家に鍵をかけないなんてあり得ない。

車の音がして玄関へ行ってみると、祖母だった。と後ろから福祉の職員だと思われる男性。

「こんにちは」

少し怪しまれながら挨拶される。

「祖母がいつもお世話になってます」
「あー、お孫さん! 家族の方がいらっしゃるなら安心です。それじゃ、僕は帰りますね」

それを聞いた祖母は、不安な声を出す。が、慣れているのか福祉の職員は穏やかな口調で仕事をしていた。

不安な声を出したことに、孫なのになぁと虚しくなる。それから、これまで見てきた祖母との思い出とは離れているんだと現実を突きつけられる。

「おかえり。ずいぶんと久しぶりね」
「ばあちゃんも、おかえり」

それぞれ部屋にいたが、帰って来ない母に少し焦ってくる。腹が鳴る。

手軽に食べられるものを探すが、お菓子すら見当たらない。コンビニへ行くにしても、祖母を留守番させて? 近所に少し言っておいたら、気にかけてもらえるだろうか。

外に出てみて、太鼓の音に足を止める。

「今日って、なんかあるの?」
「お祭りだね」

隣に祖母が来ていた。お祭りであれば、何か売られている。ここから遠い距離でもない。

「久しぶりに行ってみる? お祭り」
「あんたが小さい時、ばあちゃんが連れて行ったもんだね。今は、あんたが連れて行ってくれる」

そう言って、祖母はわらった。元々ゆったり話していたように思う。けれどもっと、ゆったり話すようになっていた祖母。気が向いたから帰ってきた。でも帰ってきてよかったと、男は思った。

7/28/2024, 12:45:39 PM