「うっ……ふぅ」
泣き声と荒い息が聞こえてくる。
大好きな人の声だ。
いつもだったら外でしか聞こえないその声。
でも今は家の中で聞こえる。
なんて幸せなんだろう。
少し顔をのぞかせる。
私の姿に気づいたのか、ビクッと体を揺らし怯えた表情になる。
体はガタガタ震えつつも私を睨みつけていて、まるで子犬のようだった。
かっこいい顔は涙でぐしゃぐしゃだし、普段はスラッと背が高くて大きく見える彼が、手足を縛られ体育座りをしているせいか、小さく見える。
「お、まえ、誰、だよ。」
恐怖のあまり、声が出ないのだろう。
かろうじて聞き取れる程の声で必死に伺ってくる。
『ふふ、あなたのフィアンセだよ。』
頭を優しく撫でると、体をまたビクつかせて後ろへ下がる。
その姿がとても愛おしい。
『そうだ。お腹すいたよね。どれ食べたい?』
持っていたビニール袋を見せる。
『おにぎりだったらツナマヨと鮭、昆布も買ったんだぁ。サンドイッチもあるし、念の為お弁当も買ったよ、幕の内弁当。』
彼は状況が飲み込めないのかカタカタと震え、怯えているだけ。
『あ、でもぉ、一昨日食べてたよねぇ、おにぎり。具は鮭と昆布だったから、今日はツナマヨがいい?あ、夜ご飯も幕の内弁当だったか。じゃあこれは私食べちゃうね。』
彼の顔がサァ…っと青くなる。
君のことならなぁんでも、知ってるよ♡
『あ、そうだぁ。』
カバンをガサゴソと漁り、一つ紙袋に包まれた物を取り出す。
『じゃーん!!どお?可愛いでしょぉ。』
手に取ったのは首輪。
『これを……はい。』
首輪を彼の首に装着して、付属の鎖をジャラジャラと壁に固定する。
『ふふ、これで……ずぅっと一緒だね♡』
彼の怯えた瞳がさらにハイライトを失っていく。
きっと彼にとっては絶望的だろう。
知らない女、知らない場所、手足を縛られ自由を奪われている。最初は口も塞いでいたが、それだと可哀想だと思い外した。
彼の手足が目に入る。
痣や擦り傷、きっとここに来るタイミングで出来たのだろう。
優しく傷を撫でる。
『ごめんね……連れてくる時に怪我させちゃったんだね。傷つけないようにしろとは言ったんだけど……。』
さすがに自分より背が高い相手、しかも男を女一人で捕まえることは出来ないだろうと思い、親しい友人(男)に頼んだ。
『あいつ……後で仕置だな。』
私の低い声に彼がまたビクリと体を震わせる。
『ふふ、大丈夫、もう怖い目には合わせないから……』
震えている体を抱きしめ、優しく頭を撫でる。
怖い状態なのには変わりないが、優しく接せられているせいか、彼の震えが少し収まった。
『あ、でもぉ、』
彼の体から少し離れ、首輪の鎖をジャラリと引く。
視線を無理やりにでも合わせた事により、彼の顔が強ばる。
『逃げようとか、ここから消えようとした時は、君にもお、仕、置、き♡』
ニコリと微笑むが、彼にはとても怖い顔に見えたのだろう、再び体をカタカタと震わせている。
あぁ、可愛い……。
絶対に離すものか。
永遠に……一緒だよ。
#永遠に
11/2/2023, 6:33:05 AM