浜辺 渚

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息を吸うと夜の冷たい空気が肺を満たす。空を見上げると、目の端に映り込む建物の光と星の光が謙遜しあってまじわっている。
私の体にはもう色々なしがらみは纏わりついていない。あぁ、ラーメン屋の看板の明かりが心地いい。もう私は好きな時間にここでラーメンを食べられるのだ。そんな素敵なことってない。暗く怖かった路地裏は、何だか冒険の予見を示しているように感じるし、やかましいキャッチは遊園地の案内人のように見えてくる。
あまりの高揚感に手と足を同時に出して歩いてしまっていた。しかし、それだってもう誰かに口うるさく文句を言われることは無い。私は右手と右足を仲良くセットで歩くことだって出来るんだ。それってとても自由だとは思わないかい、少年少女よ。
繁華街を歩いていると、光り輝く夜の街の中でも更にひときわ光っている建物があった。試しに入ってみると、そこは何かの劇場だった。
入口近くのロビーにひとまず腰をかけ、途中で買ったストロングゼロをひと口。禁煙の貼り紙を目の前に、罪悪感に駆られながらもピースをひと吸い。頭の細胞全体が一斉休暇を取ったみたいに、そこには思考というものが介在していなかった。たまにはこういうのだって必要なんだ。特に今日みたいな日は全世界が私を労い、称えるべきなんだよ。すごく気分がいい、これが多幸感か。人生は案外捨てたものじゃないのかもしれないな。

2/21/2025, 4:07:27 PM