わたあめ。

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私の行動には、全て意味がある。

夜に早く寝るのは、朝早く起きる為。
朝早く起きるのは、仕事前に自分の好きな事をして、仕事の効率をあげる為。
出社を一時間早くするのは、仕事環境を整えストレス無く仕事に集中する為。

他にも沢山あるが、私の行動一つ一つは未来の自分のために意味がある。

むしろ、意味もなく行動することは私にはできない。


『おはよう。』

「おはよう〜…。」

少しボサつき気味の髪の毛を手で整えながら、同期が出社してきた。

『ギリギリね。寝坊?』

「いやいや、違うよ。」

カバンをガサゴソと彼女は漁り、タンブラーを一つ机の上に置いた。

「これ買いに行ってたら遅くなっちゃって。期間限定の飲み物だったから、買いたかったんだ〜。」

えへへ、と笑顔にしながら私に見せてくる。

『何も遅刻寸前になってまで買わなくても。明日だって買えるでしょうし、そもそもいつもその店の飲み物飲んでる訳じゃないじゃない。』

「んー。まぁそうなんだけどさぁ?」

彼女は話しながら、カバンから手帳やら筆記用具を取り出す。

「なんとなく、今日飲みたかったから!」

パチッとウインクをこちらに決める。
男性社員ならときめくかもしれんが、私には生憎響かない。

『まぁ、どちらにせよ、始業ギリギリはどうかと思うけど。』

「ありゃ、手厳しい。」

彼女との会話を終え、パソコンに向かった。


『部長、頼まれた資料、完成しました。チェックお願いします。』

午前で作り終えた資料を渡す。

上司はペラペラと見て、んー、と唸る。

『何か?』

「もう少し見やすさ、というか遊び心?が欲しいかな……」

『はぁ。文字はハッキリめ、レイアウトはまとめてスッキリするようにしてみたと思うのですが、まだ見づらいですか?』

「いや、スッキリは間違いなくしているんだ。ただ、堅苦しさがあるというか、もう少し気を抜いた感じに……」

オブラートに包むように言われているからか、上司が何を言いたいのか分からない。

真面目に取り組むべき職場で使う資料に、遊び心とは。

頭の中でぐるぐる考えていると、後ろから肩をポンと叩かれた。

「まぁまぁ。とりあえずお昼休みだし、ランチに行こうよー。」

叩いたのは同期。
気づけば、朝買っていた飲み物は秒速で飲み終わっていた。仕事しながら、あのボリュームを飲めるのはある意味才能な気がする。

『いや、でも資料の修正が』

「ご飯食べなきゃ、力も出ないでしょ。変な資料になっても知らないぞー!」

失礼な、と思ったが一理ある。腹が減っては戦ができぬとも言うし、頭も使うだろう。
糖分補給のために、同期について行く事にした。


「だいたい、君は考えすぎなのよ。」

お昼ご飯であるパスタを口に運びながら、同期に言われた。

『そりゃ、仕事なんだから考えはするでしょ。』

「仕事に限った話じゃなく!日常生活でもさ、常に考えてない?意味だとか。」

もぐもぐさせながら話しかけられる。いやどれだけ器用なんだ。なぜそんなにもぐもぐしてるのに、聞き取れる言葉を喋れるのだろうと思いつつも、彼女の質問に答える。

『意味の無いことは嫌だし、無駄だから。あなたの飲み物もただの余分な糖分摂取だし、部長の言う資料の遊び心も必要な意味が……』

淡々と言うと、彼女のフォークを動かす手が止まる。

「そうだなぁ、確かに私の朝のコーヒーは余計な糖分かも。でもそれは、君からはそう見えるだけでしょ?」

『まぁ……それは、』

「私からすれば、朝のコーヒーはやる気スイッチを入れるルーティンなの。その人にしか分からない意味だってあるんだよ。」

彼女はニコニコしながら、そばにあったお冷を飲み干す。

「……会議ってさ、眠くなるんだよ。」

『え?』

「集中出来ればいいけど、お昼の後だとどうしても眠気が来てしまう。これは生き物誰しもがそうだと思う。そういう人が、堅苦しい資料を見たら余計に眠くなると思わない?」

『でもそれは、相手の、』

「もちろん相手の都合。かと言ってご飯を食べるな、とは言えないでしょ?それに堅苦しいと意見も出づらい、そこに少しでも遊び心がある何かがあると、少しは参加しやすいんじゃないかってことじゃないの?」

確かに重要度の高い会議であれば、緊張感が必要だろうが私が任された資料は、社内レクリエーション向けの資料。そう言われてみれば、私の資料は堅苦しすぎたのかもしれない。

「意味を変に決めてると、凝り固まって行動もしづらくなっちゃうよ。少しはゆるく行かなきゃ。」

そう言って彼女は机に備えついてるタッチパネル操作する。
どうやら、パスタだけじゃ足りなかったらしい。

周りを見渡す。

子供連れできている家族。
カップル。おひとり様。
それぞれ来ていて、ご飯を食べたり、本を読んだり時間を潰している。

そして目線がある男の人で止まる。
見たところつまんなそうにスマホをいじっていた。

『あの人は、どうなんだろう。』

「んぇ?」

『あの、スマホを弄っている人。あの人はなんでスマホをいじっているんだろう。』

「さぁ?まぁでも時間潰すためか……」

彼女は私の指した相手を見て、考え込む。

「もしくは何も意味無くいじってるんじゃない?」

『えぇ……』

呆れた顔で彼女を見ると、満足したのかタッチパネルを戻していた。

「意味なんて行動してる本人じゃないとわかんないんだって、あとはあくまで憶測なの。」

『なる……ほど。』


「お待たせしましたー。いちごパフェ二つになります。」

コトリ、とパフェを二つ置いてウエイトレスが去っていった。

『……二つも食べるの?』

「いや?一個は君の。私からの応援のパフェ。」

『…………。』

彼女は付属のスプーンで早速食べ始めていた。
口に運ぶ度に、幸せそうな顔をする。

『……いただきます。』

ぱくりと、上に乗っていたいちごをスプーンで口に運ぶ。
酸味の効いたいちご。パフェのクリームがついているおかげで、柔らかい酸っぱさになっていた。

「……どう?あなたにとっては意味がありそうです?」

『……正直、余計な糖分だと思う。……けど。』

なんだか小さな頃に食べた、いちごパフェに比べて美味しく感じたからか、笑みがこぼれる。


『こういうのも、悪くないかも。』


ならよかった、と彼女も笑う。

二人でパフェをつつきながら残りの休憩時間もすごした。

#意味がないこと

11/9/2023, 9:11:36 AM