『心と心』
先生は、どうして僕を選ばなかったんだ。
卒業式で最後に別れの挨拶を告げる代表者に、少年は選ばれなかった。
成績は常にトップ、人当たりも良く、誰よりも行動的。
今年の学芸会が無事成功したのも、生徒会長である少年のお陰だ。
卒業生の全員が、少年が選ばれると確信していた。
しかし、それでも少年は選ばれなかった。
その上、先生はなぜ、よりにもよって出来損ないのあいつなんか選んだんだ。
べつに挨拶がしたかった訳じゃない。
ただ、優秀な自分を差し置いて不出来なあいつが選ばれたことに納得がいかなくて、無性に悔しかった。
ただ、それだけのことだった。
卒業式当日。
卒業証書を受け取った後、いよいよあいつがステージの中央に立つ時が来た。
しかし、というか案の定、演説は見るも無惨な結果に終わり、あいつは全校生徒と保護者たちの失笑を見事に掻っ攫った。
だけど、少年だけはそれを笑えなかった。
不器用でも必死に感謝の言葉を述べるその姿を見て、何故だか自然と頬から雫が零れ落ちる。
最後に自分が選ばれなかったことが悔しくて、憤って、許せなかったけど、
それでも、なぜだか最後にステージに立つのが彼で良かったと、
心の底から思えたんだ。
12/13/2023, 7:18:50 AM