『だから、一人でいたい』2023.07.31
無意識にタバコを買って無意識にタバコに火をつける。
口にくわえて、煙を吸ってからその事に気がついた。
タバコを吸うなんて久しぶりだ。こんな珍しい銘柄のタバコなんて、そうそう売っているわけが無いから、どこかで意識した部分もあったのだろう。
せっかく火をつけたし消すのが勿体ないから、そのカカオの味がするタバコを楽しむ。
番組のロケで連れ回されて、気がつけばどこかの山の中にある道の駅で休憩している。
他の連中はトイレに行ったり、買い物をしたり散らばっていて、今は僕一人だ。
長い時間、車の中でいい歳した男が四人もいると、ギスギスすることもある。
僕が「僕」を演じている時は、カメラも回るし気難しいあの人も「あの人」を演じているから、空気も悪くならない。
問題はカメラが回っていない時だ。見知らぬ土地で慣れない道を運転すれば、誰だってストレスが溜まる。
だからこうして、各々が好きな時間を取れるのが、救いとなっている。
せめてこのタバコ一本が終わるまで一人でいたいのだが。
「おやおやぁ、先生。美味そうにタバコ吸ってますなあ」
ドラ声のカメラマンが、にやにや笑いながらやってきた。
カメラはばっちりRECのボタンが点灯している。
「だから、一人でいたかったのに」
そんな僕の呟きも、カメラマンのガハハと言った笑い声にかき消されてしまった。
7/31/2023, 12:03:34 PM