傾月

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終わりにしよう。
思い返せばここまで、我ながら良く頑張ったと思う。1年365日、暑い日も寒い日も雨の日も雪の日も、充分頑張ったと思う。だからこそ、ある日不意に頭をもたげたその考えは、最良の道のように思えた。
終わりにしよう。
初めての日のことは、今でも鮮明に覚えている。桜の美しい春の日だった。大人も子どもも大勢で歓迎してくれて、嬉しいような照れくさいような、そんな気持ちだった。
そこから何年もの間、たくさんの人たちが入れ代わり立ち代わりここで思い出を作り、それを胸にここを巣立って行った。
いつの年だったか、この地の一大産業が終わりを迎え、それに伴い大勢の人がこの地を去った。1人、また1人と減っていく中、それでもまだ残っている人たちの為に、今までと役割は変われどもできることはやろうと全力を尽くした。
それでもこうして終わりは来るのだ。
ここで全てを見届けられたこと、役目を全うできたこと、心から誇りに思う。
さぁ、終わりにしよう。

・・・・・

「本日午後、調査のため入っていた作業員が、旧〇〇学校の校舎が倒壊しているのを発見しました。ここにはかつて一大産業で長きに渡り栄えた町があり、最盛期には1万人以上の人が暮らしていました。産業衰退に伴い人口は減少、その数年後に町は閉鎖となりました。
今回発見された校舎は、先月の大雪による積雪に耐えられず倒壊したものと見られ…


―――天寿


                #12【終わりにしよう】

7/15/2023, 5:41:42 PM