嘘ばっかり吐く人間の戯言なんて、相手にしない。
「君がいれば、他には何もいらないんだ!」
それなのに、彼は今日も笑顔でこの店に来る。そうして花束やら何やらを突き出してくる。生物は駄目だと言っても理解できないのだろうか。彼の口はよく回るけれど、耳の機能は悪いらしい。
「私はしがない店員なので」
そう冷たく言い捨てても、彼が諦めるそぶりはない。本当にどうかしてる。こんな容姿の、真面目だけが取り柄の私に、しつこく言い寄るなんて。
「店が終わったら?」
「真っ直ぐ帰ります」
「ちょっとくらい」
「できません。寄り道しないようにと言われていますから」
この言葉も何度目だろう。でも彼は懲りずに誘ってくる。私のことをなんだと思ってるのか。
「そこをなんとか」
日焼けした手をこちらへと向けてくる彼に、私は首を横に振ってみせた。
「無理です。私は機械ですから」
ロボット。人間は私をそう呼ぶ。名前なんてない。便宜上番号がついてるだけの、ただの機械だ。美しいアンドロイドとは違う。そんな私の一体どこがいいと言うのか。
「でも君がいいんだ!」
それなのに彼は繰り返し言う。融通の効かない真面目なだけの私が、一所懸命に見える私がいいのだと。理解し難い感情だ。
私の方が寿命は短いのに。必ず置いていってしまうのに。なのに欲するなんて。
「申し訳ありませんが」
だから今日も私はすげなく断る。私のこの寿命が尽きる前に、彼が諦めるように。それさえ叶えば、もう何もいらないから。
4/20/2023, 10:26:25 AM