ずっと、欲しかったモノがある。
だけど、それはすでに祖母のモノで、祖母からそれを奪い取る真似なんてできない私は全身でそんなモノには興味ありませんという素振りをして祖母や彼の目を欺き続けてきた。
「難儀な子だね」
同僚兼現在の相棒の男は同情したように言う。銀髪に瑠璃色の瞳を持つ美しい男は高慢を絵に描いたような姿をしている。
「手に入れようとは思わないのかい?」
「無理でしょ」
「最初から諦めていては手に入るものも手に入らないよ」
「貴方はいつも手に入る側だから言えるんだよ」
「失礼だね。俺だって欲しいものはある。彼がそれを自覚して、謝罪するまで許す気はないんだ」
彼、というのはかつて目の前にいる男の相棒だった人だ。なんらかの理由で罰せられたその人は別部署へ飛ばされたらしい。
「家に通っているのに?」
「それはそれ。これはこれだ」
にっこり、と笑う同僚はそれ以上言うなと瞳が雄弁に語っている。
ずっと、欲しいモノがある。
だけど、それを手にしようだなんて烏滸がましい。それなのに、
「なんでいるの?」
私の住むアパートの玄関にしゃがみこむ彼がいた。
「いやはや、きみの祖母と喧嘩してしまってな。追い出された」
あっけらかんと言う彼に頭がいたい。怒る姿を一度も見たことない祖母と喧嘩だなんて何やらかしたの、このヒト。
「部屋に入れてくれよ、おひいさん」
「もう、おひいさんって呼ばれる年じゃないんだけど」
私はアパートの玄関のドアを開けた。どうぞ、と招き入れると彼は渋い顔をした。なんでよ。
「きみ、もう少し警戒したほうが良いぜ?」
貴方に警戒だなんてするまでもないことぐらい、貴方が一番分かっているくせに。
「そうだ、きみの祖母から手紙を預かってきたんだ」
そう言って懐から出した手紙を受け取り、中身を開いて出た便箋には真ん中に大きく『あげる』という一言だけ。本当に何やらかしたの、このヒト。
「受け取ってくれるだろう?」
「ばあちゃんと仲直りするまでね」
欲しいモノがあった。
だけど、こんなカタチで欲しかった訳じゃないのに。嬉しいと思う自分が何よりもイヤだった。
12/2/2025, 11:07:36 AM