【今年の抱負】
正月二日から前触れもなく他人の家へと押し入ってきた幼馴染は、うるさいだけのバラエティ番組をぼんやりと眺めながら、やけに静かな声で口を開いた。
「今年はね、少しだけ本音で喋ってみようと思うんだ」
まったく、いったい何を言っているのやら。口を開けば嘘ばかり、本心を他人に晒したら負けだと思っているようなヤツのくせに。
そんなことを考えながらも、俺は沈黙を保ち、ただ無心で墨を磨り続けた。年明け二日目の午前中に書き初めをするのは、俺の毎年の習慣だ。コイツの訪問ごときで邪魔されてなるものか。
「ちょっと、無視しないでよ。せっかくの今年の抱負なんだから」
勝手に言っていろ。オマエに振り回されないのが、俺の今年の抱負なんだ。どれだけ唇を尖らせたって、今年こそはオマエを甘やかしはしないと決めたのだから。
「……今まで言ったことなかったけど、君が書をする姿勢が好き」
げほり。想定外のセリフに、思わずむせ返った。俺の反応など意に介した様子もなく、オマエは指折り数えていく。
「君の書く文字が好き。墨をする音が好き。君が筆を滑らせるときの、真剣な横顔が好き」
「っ、もうやめろ!」
頬が熱くなっているのが自分でもわかった。そんな俺の反応を見て、オマエは愉快そうに小悪魔めいた笑みを浮かべてみせる。
「言ったでしょ、今年は本音で喋るって」
ああ、くそ。結局俺はいつだって、オマエの気ままさに振り回されてしまうのだ。残念ながら今年も、俺の新年の抱負は叶いそうにない。小学生の頃から絶賛十二連敗中の現実を受け止めて、俺は大きくため息を吐き出した。
1/2/2024, 2:47:41 PM