わをん

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『君と出逢って』

君と出会う前の僕は食事に興味がなかった。菓子パンでもおにぎりでもカップラーメンでも腹が満たされればなんでもよかった。職場の同期として出会った君とそういう食生活をしているという話をしたとき、君の顔がどんどん険しいものに変わっていったのはなかなか面白かった。その日の仕事終わりにうちに来いと半ば強制的に連れられ、男の部屋の割には整った台所や手際の良い調理風景を見て異世界を見ているかのように思えたものだ。出来上がったのは肉野菜炒めと味噌汁。
「……なにこれおいしい」
素朴な素材だけの料理のはずが、これまで食べて来たどの飯よりも美味かった。そうだろうそうだろうと満足そうに頷く君は言った。
「おまえに食事への興味を教えてやる」
仕事終わりに君の家へ寄ってから帰るのが当たり前になり、泊まることもしばしば。職場の周りにはデキていると思う人もいたらしいけれど、否定できないぐらいには入り浸っていた。入り浸りのさなかに食事への興味は深まり、包丁を握ったこともない人生から人に何かを作って提供できるまでになっていった。
「この肉野菜炒め美味いな!」
「君と僕との思い出の味だよ」
そういえばそんなこともあったな、なんて言いながらビールを飲む君に釣られて冷蔵庫に缶ビールを取りに行く。
「今日泊まっていい?」
「おまえビール飲んだら絶対泊まるマンだな」
今日もごはんがおいしくてビールもおいしい。君と出逢って本当によかったと思う。

5/6/2024, 3:44:08 AM