【私だけ】
友人たちと廊下の片隅で立ち話をしていれば、ほとんど視線すら向けられないまま、私の手元へと書類だけが放られる。慌てて口を開こうとした時にはもう、君は早足で歩き去っていた。
「ちょっと、これ期限いつまで?」
放課後の喧騒に負けないように君の背中へと声を張り上げれば、明後日とだけ短く返ってくる。やれやれと息を吐きながら書類をパラパラとめくっていると、友人たちが同情の視線を私へと注いできた。
「会長ってあんたにだけ厳しくない?」
「普段あんなにみんなに優しくて、ニコニコしてるのにね」
口々に好き勝手言い始める友人たちに、まあねと適当に相槌を打ちながら、書類の中の重要そうな項目に目を通していく。
確かに彼は私にだけは横暴だ。だけど私からしてみれば、あの傍若無人で傲慢な幼馴染が『優しい』なんて評されていることのほうが驚きだった。外面を取り繕うのが上手くなったものだなぁなんて、若干の微笑ましさまで覚えてしまう。
私だけが知っている、完璧な生徒会長の粗雑な側面。私だけが見せてもらえる君の本質。ちょっとした優越感を胸に、私は書類のページを丁寧にめくった。
7/18/2023, 11:55:42 AM