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「これまでずっと言えなかったことがあるんだけど」
シューズが体育館の床を擦る音。
「ん?なになに」
真剣な彼女の横顔をうかがった。
激しくバウンドしたボールはやがてゴールへと吸い込まれる。
いや、と彼女はモゴモゴとしていてはっきりしない。
「気になるんだけど。どうした」
ピーッと試合終了のホイッスルが鳴り響く。
彼女は立ち上がり、「また後で」とコートに入ってしまう。
いやいや、待ってよ。すごい気になるじゃん。
その言葉を飲み込んで、私もコートへ向かう。
彼女と私、ボールを挟んでお互いに向き合った。
モヤモヤした気持ちのまま、彼女を見つめる。
なんでそんなにすました顔しているんだよ、もう。
先生が笛の音とともにボールを真上へ放り投げる。
ハッとしてジャンプしたものの、出遅れて彼女がボールを弾く。
結局、彼女のチームには負けてしまった。
「それで言えなかったことってなに?」
着ていたジャージを腰に巻きながら聞いてみる。
体育座りをした彼女は膝に顔を埋めていた。それから意を決したように、私をまっすぐとらえる。
「実はわたし、お母さんのことママって呼んでるんだよね」
頬を茜色に染めた彼女の瞳の潤みを凝視してしまった。
「なんだよ、そんなことかよお」
「わたしにとっては大事なことなの。恥ずかしい」
丸くなっていく彼女の頭を撫でまわす。
これまでずっと彼女の友達で良かった。これからもずっと友達だよ。
これはまだきっと言わない。

7/13/2024, 1:16:36 AM