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「秋風」

秋風が心地よいこの時期、いよいよマラソンシーズンの幕開けだ。

走ることに興味がない方には、どうでもいい話だが、だいたい10月ぐらいから、全国でマラソン大会が開催され始める。しかもここ1〜2年はコロナ禍で中止になった大会も多かっただけに、今年は待ちに待ったという方も多いだろう。ベストタイムを狙って己の限界に挑戦するガチランナーから、その格好で走り切れるんですか?と思わずにはいられない着ぐるみを着た仮装ランナーまで、楽しみ方は人それぞれだ。

マラソンの場合、完走とは、走り続けてゴールすることではない。スタートして、制限時間内にゴールすれば、完走である。疲れたら歩いても、止まって休んでもいいのだ。ちなみに大阪マラソンの制限時間は7時間。そこそこ走れれば、半分くらい歩いてもゴールできる。大会完走率は、97%以上らしい。

大会は、号砲を合図にスタートとなる。ただ東京や大阪といった大都市で開催される大会は、参加者が何万人にもなるので、号砲が鳴っても、後ろの方の列はちっとも進まない。ストレッチをしたり、隣の人とお互い頑張りましょう的な世間話をしていると、少しずつ列が動き出す。号砲が鳴ってから10分後ぐらいにスタートラインを越えて、いよいよスタートである。

最初の5km ぐらいは、天国だ。沿道からの声援に、嬉しいやら恥ずかしいやら。知らない人に手を振ったりする余裕もある。まさに最初からテンション爆上がり状態になるのだが、いやいやここで調子に乗ってはいけないと自分を制する。マラソンはイーブンペースが基本だと、ジェームスも言っていたではないか。後半まで無理をせず、体力を温存するのだと自分に言い聞かせるのだが、そもそも温存する体力なんて最初からないということを、この先嫌というほど思い知らされる。

10kmを過ぎたぐらいから、少し脚に違和感を覚え始める。歩くほどでもないし、まだ大丈夫だと思って走るのだが、実は違和感を感じている方の脚を、少しずつかばって走っていることに気づいていないことが多い。そのうち違和感が痛みに変わってくる。多いのは、膝の外側か内側の痛みだ。20kmぐらいまでに、ちょっと止まって屈伸をしたり、歩いたりすることもあるだろう。でも本当に辛いのはここからだ。

マラソンには、30kmの壁と言われるものがある。普段のランニングでそんなに長い距離を走ったことがない人が、30kmを越えた辺りから、脚や体力が限界に達し、歩いてしまうことが多いのだ。もはやゲームでいうHPは5ぐらい。当然ステータスは赤表示だ。まさに満身創痍。そんな脚を引きずって、それでもなおゴールに向かって歩き続ける。初めのうちは天国だったはずなのに、気がつけば地獄の中をさまよっている。私は修行僧か?

途中でエイドと呼ばれる、水やスポーツドリンク、補給食を提供してくれる所がある。大会によっては、ご当地グルメを提供したりして、それを目当てに参加するランナーも多いとか。でも何万人分も用意できないので、後ろのランナーがエイドに着く頃には、すっかりご当地グルメはなくなっていたりする。仕方なくスポドリをもらって、また進む。托鉢をもらえない修行僧の気分だ。知らんけど。

40kmを越えると残りは2kmちょっとだ。相変わらず脚の状態は最悪だが、あと2kmぐらいでもう歩かなくてもいいかと思うと、薬草程度にHPが回復する。でも所詮薬草だ。ゲーム終盤にHPが10回復しても、表示が赤から白に変わることはない。ラストスパートなんて、無縁の言葉だ。でもここまで頑張ってきた者を、神様は見放したりはしない。最後の最後で、奇跡を用意してくれるのだ。

ゴールまであと数十メートル。ここまできて、ふと気づく。あれほど痛かった脚が動く。痛いのは痛いのだが走れるのだ。ここまで散々歩いてきたのに、最後ぐらいは走ってゴールしたいと思える。いける!いけるぜ、私!そして最後は、まるで歩くことなく、ずっと走ってきたかのように、両手を上げてゴールするのだ。やった、やったよ!私は、普段は感じない達成感とか充実感とかで、いっぱいになる。誰にかわからないが、ありがとうと思えてくる。あんなに苦しんだくせに、もっと練習して、来年は歩かず完走しようとか、早くも来年のことを思ってしまう。マラソン大会には、そんな魅力がいっぱいあるのだ。あなたも来年、一緒に走りませんか?

っというのが、私のマラソン大会のイメージである。ちなみに私は、マラソン大会なんかにエントリーする予定はない。

11/15/2022, 4:30:38 AM