「昔々、遠い過去のお話さ
それはまだ、神と人が共存していた頃の物語だ」
私たち以外には誰もいない
夕日の射し込む静かな図書館で
何も書かれていない本を読みながら
貴方は静かに話し始めた
天を彷徨う雲の上で、悪魔と天使が恋をした
まるで運命に導かれたかのように
互いをひと目見た瞬間
枯れた心臓に一輪の花が咲いた気持ちになった
それから彼らは密かに会うようになった
闇が世界を覆い隠す新月の夜だけに
白く小さな花を一輪だけ贈り合って
言葉にできぬ想いを告げた
けれど、そんな日々は長くは続かなかった
何回目かの密会で二人の秘密が知られてしまった
月が彼らを裏切ったのだ
二つの種族は怒り狂い、長き激戦の末に
女神は同族にその命を奪われ
悪魔は永遠の呪いを掛けられた
悪魔は死を望んだ
悠久の時を独りで生きるだけでなく
長い時を経て愛した者の記憶が徐々に奪われていく
彼は責め苦に耐えかね、命を終わらせてくれと頼んだが
彼の願いはついぞ叶うことはなかった
そこまで話して、彼は白紙の本を閉じた
私は二人の悲しい終わりに
しばらく何も言うことができなかった
「彼らをハッピーエンドにしてあげられないの?」
沈黙の末、私は彼に聞いた
すると、彼は少し悲しい顔をして答えた
「彼らはきっと、何度やり直したとしても
ハッピーエンドにはなれなかったと思うよ」
許されぬ恋をした悪魔と天使はきっと
いつか報いを受けるとわかっていても
互いの笑顔を見ずにはいられなかったのだろう
いつか、永遠にはなればなれになったとしても
貴方は窓から空を見上げている
その瞳には悲しみと後悔が溢れているようで
もしかして、その悪魔は貴方なの?
なんて
そんな愚かで残酷な質問をすることはできなかった
11/17/2024, 1:21:36 AM