無音

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【105,お題:ススキ】

コトリ、背中越しに聞こえる硬い花瓶を置く音

...ああ、また来やがった

チッと心の中で舌打ちをして悪態をつく
白いシーツにくるまって狸寝入りをしていると、当たり前のようにアイツが話しかけてきた

「ねえ、起きてるんでしょ」

「...」

「今日ね、みんなでサッカーの試合を観に行ったんだよ」

「...」

「応援頑張ったんだけどもう少しってとこで、なんと猫ちゃんが乱入してきてね!...そのまま負けちゃった
 運も実力のうちってこの事だよね~次こそはーってみんなで運気を上げるおまじないを試してるんだ~」

うるさい、早く帰れよ
そんな言葉を発する気力もなく、ケホッと小さく咳き込んでぼんやり壁のシミを眺めた

そんな楽しい話は別の誰かに聞かせてやれ、俺はもう...何にも期待したくない

「蓮くん、ススキの花言葉って知ってる?」

「...?」

ごう、と強い風
外から吹き込んだ空気の渦が、病室を滅茶苦茶に荒らしていく
埃が舞ったのか、喉がへばりつくように締まった

「ゲホッ、っおい!げほっけほっ窓、閉めろ...ゼェッ」

気道が狭まる感覚に喉を押さえて起き上がる

「は...?おいッげほ、お前...ッ!」

「ススキの花言葉はたくさんあってね、《活力》《生命力》《なびく心》《憂い》
 ...このほかにもいくつかあるんだよ、それでね」

風に靡くカーテンを背に、窓に腰を掛けたアイツの姿
ここの病室は5階柵やベランダは付いていない、落ちたら怪我どころじゃすまない

「その中一つがね、《悔いのない青春》」

「なん、なんだよ、戻れ!危ねえだろ!」

ベットから降りようにも点滴が邪魔だ、それにずっと寝たきりだった身体は、思うように言うことを聞いてくれない

「病室で寝たきり、なんてあんまりだよねぇ?せっかく一度の人生なのに」

ずるり、身体が前にずれる、重心が傾く

「私の送るはずだった人生、運命を全部君にあげるだから、悔いのないよう生きて」

ずっ

アイツが消える、その数秒後重い何かが落ちたような音が下から聞こえた
その後には、アイツが持ってきたんであろうススキの穂が風に揺れていた


11/10/2023, 2:24:47 PM