いつ来ても、ツンとした臭いのするこの白い空間は好きになれない。
薄いピンクのカーテンをすり抜けて、白いベッドの上の若い女を眺めた。
紫がかった土気色の顔は、骨と皮になり、目が落ち窪んで、鼻には管が刺さっている。
枯れ枝のように痩せ細り、カサついた腕には紫色の斑点が散らばっていた。
こちらにも何本もの太い管が刺してあり、ベッド脇の大きな機械に繋がっているようだ。
この状態でまだ生きているのかと、哀れに思う。
人間は恐ろしいことをする。
こうなってまで、何故生かそうとするのか。
これでは、ただの……。
フツフツと怒りが込み上げてくる、最近は怒ってばかりで何だか疲れた。
さっさと、この女の魂を狩り、生を全うさせよう。
仄かに輝く女の魂を掬い上げ、肉体と繋がっている臍の緒のような白い糸を、自慢の長い鉤爪で千切ろうとし。
微かな声が聞こえて、女の顔を見た。
落ち窪んだ虚ろな目から涙をポロリポロリと零しながら私をしっかりと見て、首をゆっくりと横に振ったのだ。
もう少し、待って、と。
直ぐに廊下の方からドタドタと、ココには似つかわしくない音を立てながら男が一人、顔面をグチャグチャにさせながら女の元へ駆け込んできた。
女の枯れ枝のような腕を愛おしそうに絡め取り、血管の浮いた手の甲に優しく口付けを落す男。
擽ったそうな女の笑い声に、男は頬に鼻にキスを落としながらやせ細った女を掻き抱く。
愛する男に優しく抱きしめられて心底嬉しそうな笑みを浮かべながら、女はちらりと私を見て小さく頷いた。
テーマ「病室」
8/2/2023, 5:54:57 PM