紺碧

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「お前って夢とかあんの?」
ソファーからこちらを見上げて呟く男。さっきまでテレビを見ていてこちらを見ることすらなかったくせに。なんて悪態をつくのは簡単だが、話したかったのはやまやまなので見ていた雑誌を閉じ、素直に隣に座ることにした。
「お、お前にしちゃ素直だな」
「あんたが構ってくれなかったからね」
「しょうがねぇだろ、面白かったんだから」
「はいはい、で……急になに?」
ぱちぱち、と若干黄色じみた目が瞬いた。んー、だかうー、だか分からない声が部屋に響く。
眉は寄っていていかにも考えてますよ、って顔。分かりやすすぎる顔の変化にくく、と笑い声をもれそうになるのを奥歯を噛んで抑える。
「いや、特になんもねぇな」
こっちには答えを求めるのに自分は、理由いちいち考えなくね?と頭を掻くので困った人だと思う、ほんとに。
「じゃあこの話終わりね、ベランダで一服でも――」
「ちょっと待て! いま思いついたから、な?」
必死に止めてくる姿にまた笑い声が漏れそうになる、この人の反応を楽しみながらも頭の片隅では先程の質問について考えていた。夢ねぇ、小さい頃の夢はたしか会社員。可愛げのない子供だなと自分でも思う、いまと大して変わらない考え方で三つ子の魂百まで、とはこういうことか、と思い知らされた。
「えーっと……お前は未来を見てなさそうだから」
「未来?」
「俺はいつか離れるって思ってんだろ」
手がぴくり、と勝手に動いて飲み込んだ唾がごくっと音を鳴らす。図星だろ、と笑われてしまえばもう否定してもしょうがないと嫌でも分からされた。
「なんで知ってんの」
小さく呟けば、にやっと口角が分かりやすく上がる。
「そりゃ三年一緒にいればなんとなく分かんだろ」
そういうもん?と聞き返せば俺の今食べたいもんなんだと思う?という質問が返ってきた。
「さっきテレビでやってた炒飯、あんたミーハーだからすぐ影響されんだろ」
「正解、ほら言った」
「それとこれとは別じゃねぇの?」
「一緒だろ」
いきなりぱちんと手を勢いよく鳴らしたと思ったら、こちらへ体が急に向く。
「で、お前の夢は?」
「うーん……あ、一個あるかも」
「お、聞かせてみろい」
「あんた俺の考えてること分かるんだろ?当ててみなよ」
「は!? くっそ……ちょっと待ってろ、絶対当ててやっからな」
今度はあーだか、えーだか分からない声を出して悩む姿にこの人らしいな、と息が漏れた。
〝ずっと隣で〟生きていくこと、だなんて言ったら笑われてしまう。いやいっその事言ってしまって相手の反応を楽しむのもありだろう。
悩んでいる姿を横目にまだ見ぬ反応を期待しながら雑誌を一枚めくるのだった。

3/14/2023, 8:59:24 AM