No.52『始まりの雨』
散文/掌編小説
ついていない時は、何をやってもついていないらしい。解けた靴紐を結ぼうとしたら切れてしまうし、売り切れが続いたトイレットペーパーもやっと手に入れたと思ったら、大量に入荷されて買い溜めの心配がなくなるし。
「あ。雨だ」
出先で雨に降られるのもついてないけど、慌てて飛び込んだコンビニでは、ビニール傘が売り切れていた。仕方なく店先で雨が止むのを待っていたが、こんな時に限って雨は、なかなか止んでくれなかったりする。
遠くで雷が鳴っている。降り始めた雨は勢いを増し、わたしは店内に引き返して、何かを買うことにした。だけど、実は昨日、大型スーパーで買い溜めをしたばかりで、何を買おうか小一時間悩むことになるのだけれど。
結局は雨のせいか肌寒くなって来たので、ホットコーヒーを買うことにした。
「あ」
店先でコーヒーを飲もうと思ったら、鈍色の雲から太陽が顔を覗かせていて。もう少し我慢していたらと悔みつつ、特に飲みたくもないコーヒーを啜る。
そんなわたしが大切な人に出逢うまで、あと5分。すっかり止んでしまった雨が始まりの雨になることに、この時のわたしは気づかずにいた。
お題:梅雨
6/1/2023, 10:58:33 PM