「最後の曲になりました。聞いてください」
暗くて広くて、そこにいるみんなが持つペンライトがほぼ赤に染まっていて、そんな景色が切なくて哀しくてでもとても綺麗で。そんなライブ会場の一席でステージを見つめる。
今日は、私の人生の中の10数年を数え切れない色で彩ってくれたグループの、メンバーカラー赤の彼のラストライブ。
私が1番推しているのはピンクのメンバーだけど、今日で旅立って行く彼のことだって勿論大好きだ。だから今は、私のペンライトも赤で輝かせている。
力強くて明るくて、でも硬派な所もあって。大人な雰囲気を漂わせてるのにたまに収集つかないほどのボケで周りを盛り上げる。歌もダンスも出来て、あと語学的にも強い。エース級の魅力を持つ彼が、本当に本当に大好きだった。
綺麗だ、最後の最後まで。このグループでメンバーと一緒に輝く彼が、今の私にとって1番綺麗。
でももう明日からは見れない。過去の映像とか写真とかで思い出を辿ることは勿論出来るけど、逆に言えば思い出の中でしかグループの彼を感じることが出来ないってことになる。
最後の挨拶が終わって、銀テープが会場を彩って、涙を流しながらもいつも通りの笑顔を見せる彼が眩しい。
「また会おうなー!」なんて言いながら客席に手を振ってくるから、思わず私も滲んでく視界で彼の姿を追いながら手を振る。
明日からは1人のアーティストとして、ますます輝きを放つ彼に会えるんだろう。
でも"今"の彼にいつかまた一度でも会うことが出来る日を、心のどこかで待ち続けるのだけは許して欲しい。
今日まで、このグループにいてくれてありがとう。私の推しと居てくれてありがとう。アイドルとして、10数年活動してくれてありがとう。
だからお願い、さよならって言葉だけは言わないで。
※実在しないアイドルグループのメンバー卒業ライブを描いたフィクションになります。
12/3/2023, 4:24:08 PM