雪だるま

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 私の道は、私がこの世に生を受けた時から既に決められていた。

 私は由緒ある寺の跡取りとして生まれた。私は生まれた瞬間から、周囲に期待されていた。私はその期待に応えようと努力し続けた。荘厳で広大な寺の境内だけが、私の世界の全てだった。

 時が経ち、私は周囲からこの寺の正式な跡継ぎと目されるようになった。私には二つ下の弟があったが、彼の性分は厳格な禁欲主義とは相容れず、様々な騒動を起こした末に破門されるに至った。

 弟の破門以降、私に対する期待はこれまで以上に過剰なものとなっていった。この寺の最高権力者である父からは、必ずや次代当主となるように、と釘を刺された。私は彼らの期待に沿うように、今まで以上に努力を重ねたが、私はそんな毎日に疲弊し始めていた。

 ある冬の晩、私は父に呼ばれた。父は私に、私を正式な後継とすることを告げた。
「とはいえ、おまえはまだ精進が足らん。皆への周知は夏まで待ってやる。この半年のうちに今一度身辺をあらため、家督を継ぐに恥じぬよう、これまで以上に精を出して勤めよ。」
 この頃になると、私の心は疲れきっていた。父の言葉は、私をいたずらに焦らせるだけだった。
 
 目立った成果を出せぬまま、梅雨の季節になった。まとわりつくような沈鬱な空気の中、私は庭の掃除をしていた。
 父のいる本堂の方から、妙齢の女が出てきた。女は私を見て挑発的に笑った。境内では、この寺にあるはずのない紫陽花が、魅惑的な表情で花ひらき始めていた。

(あじさい)

6/14/2023, 3:13:23 AM