→『彼らの時間』4 〜恒久的〜
今まで何人かの女の子と付き合った。好きだったし、それが当たり前だと思っていた。
高校を卒業して就職したり大学行ったり、18歳の進む道はそんなものだと思っていた。
ワタヌキコウセイに再会するまでは。
好きだと思う気持ちに性別の枠は必要なく、自活の道に起業するという選択肢があることを知った。
視点の広がりが、価値観を多様化させる。人生は瞬間の集合体で、一時的の連なりが恒久的ともなる。
それなら……――。
「コウセイ」
変化を楽しんたほうが得だと思う。
「ワタヌキって呼んでってば」と、彼はさっそく嫌そうな顔をする。
「俺のことはヒロトって呼ぶのに。それにさ、苗字って恋人感薄くない?」と、コウセイの肩に顔を埋める。途端に両手を突っ張って体を離された。
「名前で呼ばれるの苦手だって説明したじゃん」
コウセイの細く長い指が俺の肩に食い込んでいる。彼の彫刻みたいなきれいな手から伝わる、離したい、離したくない……そんなジレンマ。学生起業をする大胆さは何処へやら。変化を怖れて右往左往。
まるで迷子だ。感情の迷子。
「もしかして! コウセイにとって、名前呼びって倒錯的プレイに近い感じ?」
彼の気分を変えようと話を振ってみる。
「は? な、何言ってんの? どうしてそうなるの?」
おっ、食いついた。
「俺のことを優しいってやたらと褒めるのも、そういう願望の裏返しとか?」
「もー! いい加減にしないと怒るよ!」
慌てふためくコウセイ。たまらなく可愛い。あ、でも俺にSとかそんな趣味はない。圧倒的にコウセイが可愛いだけ。
立ち去ろうとするコウセイの手を引く。
態勢を崩した彼は、ソファ背もたれを掴んで俺と向かい合った。俺を見下ろす彼の顔に緊張が走る。
「コウセイは怒っても可愛いよ」
彼の大きな目に、なんとも言えない色が浮かんだ。不安とか警戒とか、ほんの少しの信頼とか。
そう、怖くないよ、怖くないから。「コウセイ?」
「……ごめん」
あー、これ以上はイジメだよな。
「ムリは駄目だし、今日はここまで! これからもずっと二人の時間は続くんだから」
そう言ってコウセイの頬にキスをした。小さな声でごめんとさらに謝るものだから、脇をくすぐってやった。そしてコウセイの仕返し。二人で笑い転げて、土曜日の午後。
世界に一つだけの、俺たちの午後。
テーマ; 世界に一つだけ
9/10/2024, 3:02:09 AM