月見茶

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夢見る心
 
「アンドロイドは夢を見るのかしら」
 有栖はチャットの向こうにいる存在に声をかけた。
 その間も、キーボードを叩く手を止めない。
「急にどしたの?」
「アンドロイドは人間と作りが違うでしょう? 勿論脳もそれに含まれるわよね?」
「そーね」
「私たちは、まだ解明が進んでいない未知な脳みそがつまっている。でも、機械の脳みそは、人間によって作られた、その……」
「いいよ、はっきり言っちゃってー」
 画面から軽く気だるげな青年の声が聞こえる。
「『偽物の脳』っていう認識をしてるわ」
「あー、なるほどね~。確かにあいつらからは本物の脳みそは詰まってはないね」
「そうね、詰まっていたら事件性を疑うわね」
「で?」
「偽物の脳は、夢を見せるのかについて疑問に思ったの。アンドロイドは勝手に情報を処理するじゃない? 人間のように寝る必要がないもの」
「それって前に言ってたやつ? 人間が夢を見るのは、情報の処理をするためってやつ」
 『あ、はみ出しちゃった』と青年はこぼしながら、有栖に合の手を打つ。
「綿棒で拭きなさい……そう、前に話したことね。話している内に、一つ考えがよぎったの」
「え、そうだったの? あ、本当だ。すぐ綺麗になった」
 画面の向こうで慌ただしくしている青年に有栖は自身の仮説を口にした。

「アンドロイドは、根性で夢をみるんじゃないかって」
 途端、瓶が落ちるような音が有栖の耳に入る。
 悲鳴が上がっていたが、有栖は気にせず口を動かし続ける。
「彼らは人間の皮を被っている偽物。偽物は本物に近づきたいが為に、時に予測不可能な行動をするはず」
 向こうでは複数人の声があちらこちらから聞こえる。何かをふき取る音。バタバタとなる足音。怒声に似た声。有栖は惨事を想像しながらも、止まらない。
「彼らは学ぶことしか出来ない。する気がない。それも誰の為でもなく。己が為に」
 有栖がキーボードを叩く速度が段々と上がっていく。気持ちが昂りつつあった。
「絶対に獲得するでしょうね、夢を見る心を」
 瞬間有栖は、小気味の良い音を奏でた。

4/16/2026, 2:10:22 PM