蒼ノ歌

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『君からのLINE』

いつもみたいに、家族グループのLINEにメッセージが届いていた。
大抵、このグループに流されるのは、誰が私や弟を迎えに行くかや夕飯の調査、その他諸々の事務連絡である(私は"彩"を加える為にしょーもないことを呟き毎度悉く軽くあしらわれるが)。私が実家を離れてからは、家族の近況や帰省の連絡などで使われることが多くなった。
さてなんの話だろうと思いLINEのトーク画面を開く。どうやら、父の今日のゴルフの結果についてらしい。父は大のゴルフ好きで、私が小さい頃から、車のトランクにいつでもゴルフバッグが積まされていたり、洗面所でスイング練習したり―――兎に角ゴルフの話が尽きない人であった。
相変わらずだな、と今も昔も変わらない父の健やかさを感じながらLINEを見ると―――なんだか文面が...少しポップな気がした。
(遂に父さんも絵文字というものを使って...?!)
生真面目で無駄を削ぎ落としたような父の文調とは全く違った。
(そんな顔文字、家族で使うの私ぐらいじゃん!!なんだなんだ!!)
可愛らしいニコニコの絵文字やら顔文字やらスタンプやらを好奇心の赴くままに連爆している気がした。珍しいじゃないのよ、と思っていたが、それもそのはず。なぜなら、そのLINEの主は"父ではなかった"のだから。
メッセージの最初に、まだスマホを所持していないはずの弟の名前があった。嗚呼そういうことか、と、納得した。
その日、丁度父のゴルフの予定が入っていたのだが、どうやら弟もついて行きたいとねだったのだろう。楽しいことは共有したい弟のことだから、父のスマホを借りてLINEにメッセージを打ち込んだのだと、そう思った。
身体には合わない大きな大人用クラブを一丁前に構えて、楽しそうに父の真似をする弟の写真が後に送られてきた。
(そっか、父さんについてったんだね)
思ったことをそのままメッセージにして返す。待ってましたと言わんばかりに、すぐ返信が返ってきた。
『うん、たのしかった‼️
 上手だって父さんほめてくれたんだよ(*^^*)😊』
LINE上で弟と会話をするのが珍しくて、また続いてメッセージを送る。その後も何分か今日のゴルフについての会話は絶えなかった。
『父さんにそろそろスマホ返すからお話しおわるね』
なんだか、すっっっっごく多幸感。なかなかできないことができて嬉しかった。
『バイバイ‼️』
その一言を見た時、何故だか涙が出そうになった。
普段は生意気でいかにも思春期の男子という言動の弟。そんな弟がやりとりの最後に「バイバイ」を言うとは。現実の行動としては何も珍しくないのだけれど、こうしてメッセージ上でそれを言う人はなかなかいないものだから、なんだか愛おしく思えた。
LINEでこんなに嬉しいと思ったのはこれが初めてだった。今更ながらに、私を唯一「姉」という存在にしてくれる弟にはなんだか良くしてあげたいなんて思った。
あまりに珍しいからスクショを撮ったのは秘密である。

9/16/2024, 5:29:55 AM