あじさい(恋人から家族へ)
………花束に紫陽花入れるってのはやっぱり邪道かな。
花屋で男が一人うんうん唸っているのは異様だったのだろう、バイトらしき若い女の子に声をかけられた。
「ご相談に乗りましょうか?」
「あー助かります、お願いします」
彼女へのプレゼントだと伝え、好みの傾向と好きな色、予算を伝える。
「今の時期、紫陽花綺麗ですね。でも花束としてはどうかなと思って」
「そうですね、個人への贈り物としては難があるかもしれませんね。女性の方だと花言葉に詳しかったりもしますし」
花言葉………
「なるほど、それは盲点でした。花を贈る時にあんまり気にしてなかったな」
「男性だとそこまで関心のある方は少ないですね。紫陽花は色々あるんですが、主な花言葉だと移り気、浮気になっちゃいますね」
………。さすがにそれは贈れない。
「それは紫陽花自体の花言葉で、色別や家族宛てだとまた違ってポジティブな感じにはなるんですが」
「え、個人と家族で意味が違うんですか」
「そうですね。家族団欒、和気あいあい―――仲を取り持つ象徴みたいな感じですかね」
家族―――。
花屋を後にし、俺は待ち合わせのレストランへと向かう。
―――気に入ってくれるだろうか。
彼女をイメージして仕上げてもらった、緑と白のコントラストが映えるアナベルの花束。
そして今日この日の為に送る、リボンのかかった小さな箱―――。
一年前から君の誕生日に伝えると決めていた。
俺はひとつ深呼吸をして、先に彼女が待つレストランの扉に手をかける。
緑と白の花言葉。“ひたむきで一途な愛”
―――その愛を今、君に真っ直ぐに伝えに行く。
END.
6/14/2024, 3:05:04 AM