明日、世界は滅ぶらしい。
無数の隕石が地球に降り注いでいて、天災と呼ぶに相応しいそれは、現代の技術ではどうしようもないんだと。
ニュースキャスターが神妙な顔をして、淡々とした、それでいてどこか震えた声でそう言っている。
そんな話を聞いた僕は、補導時刻も親の声も、全部全部無視してギターを買った。
店員も半ば自暴自棄だったようで、僕のお小遣いなんかじゃ到底買えないような高いやつをホイホイ出してくれた。
こんな時だけは、隕石様々である。
それから家に帰って、適当に弾いてみた。
今どき、ギターの弾き方なんて、少しネットで調べればいくらでも分かりやすい動画が出てくる。
たくさんあった動画の一番上に表示されたのをお手本似して、僕はひたすらギターに集中した。
けれどやっぱり、一日程度じゃ全然弾けなくて、ようやく弦の感触に慣れてきた頃、世界は滅んだ。
鳴り響くスマホのアラートを耳にしながら、意識を喪ったつもりだった。が、何故か起き上がれる。世界は、普通に回っている。
所謂夢オチ。あれは全部、僕がみた一夜分の幻覚だったようだ。
その日からだ。僕が享楽的な刹那主義の人間になったのは。
僕は今まで、後先のことばかり考えて生きてきた。
後のために、やりたかったことを押し殺して勉強した。
後のために、欲しいものも全部無かったことにして貯金した。
でも、きっと、その我慢の末には何もない。
我慢したことが、全部自然とできるくらいの余裕ができた頃にはきっと、もう僕にそれらを楽しむ時間も体力も無くなっている。
我慢して我慢して、何にもできないうちに死ぬくらいなら。
それなら、少しだけ我儘に、無鉄砲に生きてみようと思ったのだ。
明日、世界が終わっても、残る悔いを少しでも少なくしたい。
ぼんやりしていた僕の世界に、そんな輪郭が生まれた朝だった。
テーマ:明日世界が終わるなら……
5/7/2026, 8:51:07 AM