改札の前で、彼女は立ち止まった。
行き先が違うことを、もう何度も確かめたはずなのに。
「好き同士なのになぜ別れが来ることがあるの」
彼女の声は小さくて、責めるより先に、諦めに似ていた。
俺はすぐに答えられなかった。
答えは知っていたけれど、口にした瞬間に本当になってしまう気がしたから。
好きだった。
今もそうだと思う。
連絡が来ない夜に不安になるし、彼女の笑い方を思い出すだけで胸が緩む。
でも、俺の毎日は彼女を置き去りにして走っていた。
仕事、責任、選んだはずの人生。
彼女を守る余裕がないことに、気づかないふりをしてきた。
「嫌いになったわけじゃない」
それしか言えなかった自分が、情けなかった。
好きだと言えば引き止めてしまう。
でも一緒に未来を描けないまま繋ぎとめるのは、もっと残酷だと思った。
電車の音が近づく。
彼女の目が少し潤んだのを見て、俺は視線を逸らした。
本当は、
好き同士だからこそ、別れが来ることがある。
その言葉を、俺は最後まで言えなかった。
ドアが閉まり、彼女が遠ざかる。
胸の奥が静かに痛む。
――愛はあった。
ただ、同じ場所へ行く勇気が、俺にはなかった。
それでも、彼女を好きだった時間だけは、
嘘じゃなかったと信じていた。
1/21/2026, 7:20:44 PM