紅月 琥珀

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 新しい街に入って少しした頃、急に雨が降り出した。
 濡れるとマズイものは基本袋に入れているとはいえ、なるべくなら濡らしたくなくて⋯⋯急いで知らない街を走り、どこか雨宿り出来る場所を探す。
 そうして走っている途中でたまたま見つけた⋯⋯まだ崩れていない神社に駆け込み、拝殿で雨宿りさせてもらう事にした。
 カバンの中身を確認して濡れた髪などを軽く拭き、床にブルーシートを敷いて一休み。

 段々と強くなっていく雨を見ながら、ふと昔の事を思い出す。
 雨の日にお母さんとお気に入りのレインコート来てお買い物に行って、水溜りに飛び込んで怒られたり。
 遠足前日に凄い雨で、でも明日の遠足行きたくて両親と一緒に作ったてるてる坊主の事とか。
 降り続ける雨の音を聞きながら、もう送ることの出来ない日々を思う。
 そうする中で、どうして私だけ生き残ったのかと考えてしまった。私よりももっと、生き残った方がいい人なんて沢山いたと思うのに、どうして私だったんだろうと。

 何かやらなきゃいけない事があるんだろうか?
 それともただの気まぐれ? 運が良かったとか?
 グルグル考えたけど、結局答えは分からずじまい。それでも無駄に考え事してる間に雨が止んできたのか⋯⋯雨音が小さくなっていた。
 この調子なら、もうすぐ晴れそうかな?
 そう思った私は少し乾かしていたカバンに中身を詰めて、使い道もないのに持っていた―――なけなしのお金をお賽銭箱へと入れ、本坪鈴(ほんつぼすず)を鳴らし二拝二拍手一拝をして神様に、雨宿りさせてもらいありがとうございますと伝えてから、まだ少し降る雨の中⋯⋯レインポンチョを来て神社を後にする。

 瓦礫の街を歩いている途中で少しずつ青空が見えてきて―――そこに、あるものを見つけて嬉しくなった。
 それは綺麗な虹の橋。そのそばにある雲が龍の顔みたいに見えて⋯⋯そんな雲は初めて見たから驚きつつも凄くレアなんじゃないかって嬉しくなる。

 私が生き残った理由は分からずじまいだけど、それでも⋯⋯今の私に1つ言える事があるなと思った。
 だから私は、その虹と龍の雲に向かって叫ぶ!
『祝福なのか、呪いなのか、分かんないけど! 私を生かしてくれた誰かー! 終わった世界でしか体験できない事を、体験させてくれて、ありがとうー!』
 私は思いっ切り叫んでから、その虹と龍の雲が消えるまで、ゆっくりと歩きながら眺め続けるのだった。

2/14/2025, 1:56:28 PM