ラフロイグ

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仕事から帰ると、娘が「おかえり〜」とお出迎えしてくれた。
「おう、ただいまぁ…ア!!!!?」
語尾がバグる程の衝撃が眼前にあった。

今朝、家を出る時は腰上くらいまであった髪の毛が、バッサリと消え失せてショートになっているではないか!!!

まてよ。
落ち着け、俺。
妙齢の女性が髪をバッサリ切り落とすってことはだ…
つまりは…
コンマ何秒の間に脳がフル回転して答えを導き出す。

いや…彼女の血色は良いし、そもそも笑顔だ。悲壮感は無い。
ん?気分転換ってやつなのか?

頭は次第にクリアになってきたが、体は機能停止したロボットみたいに、次のアクションが起こせずに固まっていると…
女は「あははははは」と指差し笑いながら去っていった。

釈然としないままリビングに入ると、妻が夕食のメンチカツの準備をしてくれていた。
「アレなんなの?」
私は形態模写しながら答えを急くように妻に問いただした。
「永遠の花束をプレゼントしたそうよ」
妻は笑顔でそう答えた。

私はますます混乱してしまった。
髪を切ったら…永遠の花束で…プレゼント?
口の中にメンチカツを入れたまま咀嚼せずにいたもんだから、見かねた妻が助け舟を出してくれた。
「ヘアドネーションよ」
「へあーどねいしょん???」
私は聞き慣れない異国語をスマホで検索して、やっと合点がいった。

不意に…毎晩、楽しげに髪を丹念にメンテナンスしていた娘の姿が思い出された。



——— 永遠の花束 ———

2/4/2025, 2:04:19 PM