ぬるい炭酸と無口の君
カシュッと音を立ててプルタブを開けると、勢いよく中身が吹き出し、頭からその中身が降りかかった。私と幼馴染の無口な無口くんが学校の帰り道を歩いていた時の出来事だ。
「さいあくー! さっき落としたの忘れてたー! もう服がベトベトだよー」
中身は甘い炭酸飲料だったせいで濡れたところがベトベトして気持ちが悪い。カバンの中からタオルを取り出そうとすると、隣からタオルを持った手が差し出される。
「使っていいの? ありがとー」
コクコクと頷いたのを確認してからタオルを受け取る。濡れた体を拭きながら、さっきまで何を話していたっけと思い出す。
「そうだ、あんた最近また女子に言い寄られてんでしょ? 好きな子ならいざ知らず、好きでもない子をあんなに近くに置いてたら、好きな子に勘違いされるわよ」
「勘違い……? 」
「そう、勘違い! 好きな子があんたのこと気になったとしても、あんたの隣にあんな女くっつけてたら彼女がいると思われても仕方ないわよ」
「うん」
「ちゃんと言ってあげないと伝わんないんだから。好きなら好き、好きじゃないならお断りの言葉を伝えないと女の子はわかんないんだから! 」
無口くんは少し考えた後、「君もそう思う? 」と聞いてきた。私はそれにコクコクと頷いて同意する。
「じゃあこれからはちゃんと言うね」
「わかってくれたならいいわよ」
「うん」
理解してくれて良かったと安心していると、無口くんが炭酸飲料の入った缶を持つ手とは反対の手をガシッと握る。
「僕は君が好きだ」
「……はぇ? 」
突拍子も無い言葉に思わず変な声が出る。きっと彼から見た私はとんだアホ面を晒しているのだろう。
なにかの冗談かと思った。しかし、彼はとても真剣な表情だ。冗談には到底思えない。
「な、何を……」
「? 君がちゃんと思ったことは伝えろって言ったから」
顔に熱が集まる。頭が沸騰しそうになって、手に持っていた炭酸飲料を流し込んだ。少しでもこの感情を流してくれるかと期待を込めてみたが、既にぬるくなったそれは、ベタベタとした甘味が残った。
8/4/2025, 9:37:18 AM