かたいなか

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私、永遠の後輩こと高葉井は、
妙な経緯で、推しゲーの真実を知ってしまった。
いわゆる「実在系」だ。大昔にガラケーのウェブ小説で流行してた、「そのゲームのキャラ、実在します」とか、「その世界実在します」とかに近い。

私が長年お布施してるゲームの推しカプサイド、および主人公サイドは、「世界線管理局」っていう異世界の組織に所属してて、
彼等は、私達が住んでるこの世界も、他の世界も、
ともかく色々な世界が「その世界」として自立して、侵略されたりしないように、
いろんな仕事を、本当に、してるらしい。

で、私達が住んでる東京を、敵性組織「世界多様性機構」が勝手に他の世界からの難民シェルターにしようとしてる、と。

うん。ワケが分からない(宇宙猫)
私はいつの間にか、完全フィクションというか、
物語の世界というか、夢の中というか、
ともかく、非科学の世界線に誤進入したらしい。
ワケが分からない(大事二度発言)

「『ワケが分からない』と言われても、
こればかりは、事実なので。信じてください」
『あなたの推しゲーの組織は実在する』。
そう断言した「私の推しカプの左側」。
推しゲーの舞台、世界線管理局の法務部、警察みたいな仕事をする「特殊即応部門」のひと。
ビジネスネームを「ツバメ」というその男性は、
私の顔色が緊張で少し悪いのを、心配してくれた。

「あるいは、あのゲームに登場しているので、あなた自身も知っていると思いますが、
もし、どうしてもこの事実が受け入れられないならば、あなたの記憶を消すこともできます。
消すかどうかは、あなたに任せますよ」

推しが目の前に居る。
推しカプの左側が、目の前に居る。
推しカプの左側のツー様が目の前に居て、私に、
この私に、話しかけてくれてる。
「落ち着いて高葉井さん。私は、あなたに危害は加えるつもりは、一切ありません」

私は完全に、推し成分の摂取過多で、一気に重篤な尊み中毒を発症しちゃって、
息は苦しいし、汗は酷いし、舌から血が引いてる。
Agとメントール配合のパウダーシートでそれとなく、首筋とかおでことかの汗を拭くけど、
全然足りなくて、ずっとシートを持ってる。

酷暑のオトモの汗拭きパウダーシートは、
ひんやり、フローラルシトラスの香り。
過剰な汗拭きで、首筋は夏の匂いがした。

夏だ……(現実逃避の香り)

「高葉井さん、」
「……」
「高葉井さん、 高葉井」
「は、はいッ!?」
「こちらとしては、あなたが世界多様性機構の女性と出会った経緯と、管理局に潜り込んだ理由を話してくれれば、これ以上あなたを怖がらせるつもりは」
「いや、怖がってとか、そういうのは、あの!」

「高葉井さん」
「はい!ひゃいッ!」
「本当に、どうか、落ち着いて。
さっきから汗ばかり拭いている」
「あ、あー、えーと、いい匂いですよね!
夏の匂いっていうか、はは、はは……」

「「はぁ……」」

ラチがあかない。
私の推しは、私とほぼ同じタイミングで、私より大きくて長いため息を吐いた。
「ちょっと、外に出ましょうか」
ゲームから出てきたそのまんまの推しが言った。
「丁度良いカフェを知っている。そこで、落ち着いて話をしましょう」
私の手を引いてくれた推しは、
すごく、良い匂いがした。

7/2/2025, 9:59:21 AM