窓の外に、入道雲が立ち上っている。あの奥には雨雲があるのだと、そう私は決めつけてじっと空を睨んでいた。
体操着に着替える時もじっと空を睨み続けた。早く。早く、来てくれ。
「梓ちゃん、怖い顔してる」
友達の碧ちゃんがほっぺたをつまんでくる。
「ちょっと待って、集中してるから」
私はその手を払い除けた。
私の念などつゆほども知らず、空は青いままだった。碧ちゃんが邪魔したせいだとちょっと恨んだ。
諦めて、階下の昇降口を出たその瞬間、本能的に水気を感じた。
「きたきたーー!」
私は叫び声を上げて外に出た。
入道雲の背後から現れた黒い雨雲が大地を濡らした。私はフォーと叫びながらその雨を全身に浴びた。
だがその次の瞬間、雨雲は消え去った。晴れ間が差し、校庭は見る見るうちに乾いていった。
「私の方の祈りが強かったようね」
背後から碧ちゃんが現れて、タオルで私の頭をもみくちゃにした。
「祈り?」
「梓ちゃんと一緒に体育したいなっていう」
タオルの隙間から、碧ちゃんの、今の空のように澄み渡った笑顔が見えた。
「神様は、怨念よりも、祈りか」
聞き返す碧ちゃんに、私は首を振ってそのあとを追った。校庭のその向こう側に虹が見えた。
2/26/2024, 12:11:26 AM