足駄

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お題:快晴

足元の水たまりに漣、押し流される萼。幽かな桃色の折り重なる花びらの絨毯は随分と踏み荒らされて、見る影もない。見上げた世界に葉桜が揺れていて、一人足を止める。温みを伴う陽光がじんと目を焼いた。
花も落ち、見る影もない樹。美しさの盛りを過ぎた、季節の通過地点。つい数日前までは豊かな花弁のドレスを煌めかせて道行く全員の視線を恣にしていたというのに。
風物詩はただの街路樹へと変わり、人々はただ先を急ぐ。雲ひとつない青空がそのまだら模様を白昼の下に晒している。
なんとも可哀想だ、と思った。まるで舞台裏を露わにしてしまうような無粋。ちぐはぐな有り様。桜の幽玄の妙を「死体を養分にしている」と言い換えたあの作家に、このような姿を見せられようか。
とは言っても、これが愛おしいんじゃないか、とも思う。残念がる人々を尻目にぽとぽと花を落とし、さっさと新芽を青空に伸ばす姿はいっそ気持ちがいい。
葉桜を見る度、鮮やかな新緑がやってくるまでの辛抱だと落胆してしまうこの傲慢な心も含めて、私は晩春を愛している。
しかしなんて明るい空!

4/13/2024, 3:09:58 PM