「誰も恋人にならないから、好きだったのにな」
『さあ、夢へ!』
原作の漫画のタイトルをそのままつけた二次創作冊子の、抱き合う二人のコマを見て、あなたは呟いた。
「恋なんて、普遍的な一言で片付けられない、分かりにくい関係性をきちんと書いた作品のつもりだったのに」
「そういう微妙なのって、分かりにくいか」
寂しそうにあなたはボソボソ呟いて、
残念そうな顔で、手に持った冊子を閉じた。
「…なんで伝わらないんだろう」
『さあ、夢へ!』次回作のネームを読み返しながら、あなたは呟いた。
私は、ただ黙って、その原稿の上に横たわっていた。
あなたがいつ、私を使わなくなるんだろう、とハラハラしながら。
「…やっぱり、伝わらないのかな。……分かりやすい方が、みんな好きなんだろうな」
側のスマホには、あなたの書いた原作の『さあ、夢へ!』の公式サイトのフォロー数と二次創作同人誌の『さあ、夢へ!』の特設アカウントのフォロー数が並べられている。
公式サイト…つまり、あなたのアカウントのフォロー数もかなりの数だ。
どんどん増え続けている。
しかし、二次創作同人誌の『さあ、夢へ!』アカウントには、倍近いフォロー数が表示されている。
アカウントの説明欄には、最新号を頒布してからこの同人誌についてのアクセスがあまりに多かったため、個人ながら特別措置で、アカウントを特設したのだ、と説明されている。
「…夢だったのにな、漫画家になるの。なって、恋以外の関係性を描いた漫画をヒットさせるの」
「でも、何も伝わってなかったんだな」
あなたは、作成中の原稿を見、それから、原稿の上に放り出された私を見て、ため息と共に呟いた。
その間も、SNSは動き続けていた。
夢へ辿り着いたあなたのもとに、数々のファンレターが、ひっきりなしに届く。
フォロワーも増える。
二次創作の『さあ、夢へ!』界隈から。
4/10/2025, 10:57:38 PM