ゆかぽんたす

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今日も残業だった。そうなると無条件にコンビニに寄る。もう味を知り尽くした弁当とお茶と滋養強壮に利くドリンクをカゴに入れて。レジに並ぶ前にふと目に入るスイーツコーナー。なんとなく手に取ったプリンも一緒に入れた。それだけは2つ買う。1つだけ買うと喧嘩になるから。
でも。
「あ……」
もう、いいんだった。無意識に2つとったけど、2つも必要ないんだった。もう喧嘩にならないから。キミはもういないから。

コンビニから出てアパートに着いた頃には日付が変わっていた。ドアを開けて静まり帰った自宅へ入る。誰も居ないんだから当たり前か。途端に身体中に広がる脱力感と倦怠感。それと、大きな喪失感。洗面所の歯ブラシも1本になった。クローゼットのスペースは半分ぽっかり空いている。花の香りの柔軟剤も、よく分からないキャラクターのイラストのランチョンマットも、健康志向のおやつたちも全部姿を消した。それらは別に、僕のものじゃなかったのだから無くなっても憂いだりしない。
でも、キミは“僕のもの”だった。だから、姿を消した途端に僕の心は落ち着かなくなっている。もうかれこれ数週間、生きた心地がしない。この先もずっと僕のものだと思っていたのに。それは僕の単なる思い込みだったのだ。

戻ってきてくれ、と、灯りもつけない深夜の部屋でひとり呟いた。けれど誰も答えない。日を追うごとにキミが居た形跡が消える。キミの匂いが思い出せなくなる。こうやってゆっくりと記憶は退化していくのかと思うとやりきれない気持ちになった。窓の外がぼんやり明るい。カーテンをそっと開けると月の光が入り込んできて、情けない僕の顔をそっと照らしたのだった。

9/11/2023, 4:44:56 AM