『君と出逢ってから、私は…』
私の部屋はアパートの三階。夏になると1日に一人はお客が舞い込む。虫なんだけど。可愛いのもいる。てんとう虫とか、繊細な羽虫とか。でもゴキちゃんとかは、どうしても好きになれない。
蜘蛛が怖いという人は、よくいるみたいだけど、小さい奴なら平気だな。毎日見かける。もしかしてこの部屋に住んでる同居人なのかな。それとも種類は同じでも、違う蜘蛛なのかな。
顔があるわけじゃないので、見分けがつかない。虫メガネで蜘蛛を拡大して見てみた。そしたら、顔があった。蜘蛛の顔にあたる部分が、人間の顔している。人面蜘蛛だった。
「人間に擬態してみたの」と、蜘蛛は言った。
してみたのか、そうか。何のために?
「人間は、私達を見るなり殺そうとする人達がいるけど、人間の顔してたらうかつに殺せないはず。
生き物は常に生きるための戦略を考えているの。それでも、殺されることがあるの。なぜよ?」
でもねえ、虫さんて私が言うのも何なので、言わないけど、やっぱりキモいし怖いんだよね。だからじゃないですか?
「私は、可愛いわよ、あなたと違って」
可愛い顔してるんだけど、そういうことじゃないんだよな。でも、いっか。べつに。勝手にすれば?
君と出逢ってから、私は、蜘蛛もあんまり好きじゃないです。
5/5/2023, 4:38:29 PM