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無垢の続き

失恋

私が子供の頃お父さんが私を高く持ち上げて言ってくれた。
「シズクは、世界一可愛良いなあ」
がっしりとした手で私を持ち上げて
そう言って私を褒めてくれた私のお父さん

イクスファーラム 私のお父さん

包丁で少し指を切ってしまったお母さんに
私が治癒術で怪我を治してあげると
お母さんは私の頭を優しく撫でてくれて
「シズクは凄いわね」と褒めてくれた。

ティアファーラム 私のお母さん
二人が大好きだった。
私の特別な人達だった。

それなのに..... 私は二人を助けてあげる
事ができなかった。

二人は、私を守ってくれたのに....

ドンっと言う音と共に気が付いたら私は
お母さんの体に守られていた。

救急車が到着するまで30分
その30分が短い様でとても長く感じた。

お母さんやお父さんを助けたくて術を
使ったのにお父さんとお母さんの血は
止まらなかった。

手を翳して術を目一杯使っても血が流れる
量と私の術の力の比率が合わなくて
いくら手を翳してもお母さんとお父さんの
怪我は治らなかった。

そうして一生懸命 病院で治療をしたけど
間に合わなかった。

お父さんとお母さんは、私を守って
亡くなってしまった。


私の治癒術は、とても弱い事が判明した。
小さい切り傷や擦り傷は治せるけど
大きな命に関わる怪我を治す事は
出来ない。

お母さんが褒めてくれた私の術は
あまり役に立た無い事が分かった。

お父さんとお母さんのお葬式の日
お母さんの弟さん私にとっては
叔父さんと言う人が私に言った。

「君は誰かを不幸にする 君に向けられた
好意を台無しにする だから君は誰も
好きになってはいけないよ
特別を作ってはいけないよ」

叔父さんはお母さんと年が離れていたので
叔父さんと言うにはとても若かった。

今にして思えば叔父さんは悲しかったんだと思う。

悲しくて悲しくて行き場の無い感情を
お母さんと顔が似ている私にぶつけるしか
できなかったんだと思う。

ルークファーラム 私の叔父さん
ルークさんはお母さんの事が大好きだった。
傍から見てもルークさんはお母さんの事を
実の姉以上に思っていたんだと思う。

私はルークさんからも大好きな人を
奪ってしまったんだ。

(ごめんなさい ごめんなさい....
お父さん お母さん 弱くてごめんなさい)


だから私は今の大好きな人達を幸せにしたい 私の出来る事で精一杯幸せにしたいんだ。

だから私は願う大好きな人が大好きな人と
幸せになります様に
それを見届けられたら私は実家に帰って
お父さんとお母さんと一緒にまた暮らそう。

実家の事を考えると 寂しいし申し訳ないし気が重くなる事もあるけど....

でもバインダー局に来て大好きな人と
一緒に過ごせた。

ハロルド局長 マリアさん
ミーナ ナイト....
ハイネ.....

皆の笑ってる顔が思い浮かぶ中
ハイネだけはぶっきらぼうな不機嫌な
顔が浮かぶ。

またハイネは一人で泣いてないだろうか....
早くハイネにも好きな人が出来れば良いの
に.... そうすればハイネが一人で泣いたり
せずに済むのに... 側に居てくれる
誰かがいればハイネも幸せになれるのに....
そう思っていたのに.....




「悪い 俺好きな奴が居るんだ....
他の奴の事そいつ以上に考えられない」

ハイネが告白されて居る現場に出くわして
しまった。
ミーナやナイトは面白そうに覗いていたが
私は、悪い気がして見ない様にしていた。

でもハイネが告白を断る台詞が耳に
入ってしまった。

(ハイネ.....好きな人 居たんだ....)
最初は、告白を断る為に好きな人が居るって答えただけかなあと思っていたのだが....

「まぁそう答えるよね....」
「当然よ そう答えなきゃ殴ってるわよ!」
ミーナとナイトのやり取りに二人は
ハイネに好きな人が居たのを知っていたのかなあ....

(私だけが知らなかった....)そう思って
シズクは首を振る。
(ううん そう言う事は....あまり人に
言わない方が良い.... ハイネだって
大勢の人に気持ちを知られるのは嫌だ
よね.... だから私だけ気付かなかった
からって落ち込むのは可笑しい

むしろこれは嬉しい事なんだ....
喜ばしい事なんだ....
だから笑顔で祝福しなきゃ....)
シズクがそう気持ちを切り替えていると....

「てめえら覗きとか趣味悪ィ事してんじゃ
ねぇ」ハイネが不機嫌な顔で三人を見る。

「いやあ~珍しくモテてるねハイネ」
とナイトがにこにこしてハイネに言えば
ミーナが囁く様にハイネに耳打ちして....
「で、あんたその肝心の好きな子には
いつ告白するのよ!」

「なっ!」ミーナの言葉にハイネの体は
硬直する。
「そっそんなのいつだって良いだろう!」

「もたもたしてると他の人に取られちゃうよ!」ナイトがハイネにプレッシャーを 
掛ける様に言う。

「うっ....」ナイトの言葉にハイネはたじろぐ

ハイネは、思わずシズクの方を見てしまう....


三人が何やらひそひそと話して居たが
シズクには、聞こえなかった。
途端ハイネと目が合った。
シズクはハイネに好きな人が居た事を
祝福しようと思って居たのに....
何だかハイネに見つめられると何も言えなくなってしまう。

ハイネの顔が何だか赤い様な気がする
覗き見なんてして居たからやっぱり怒って居るのかなあ....
まずはちゃんと謝らないと....

「ハ....ハイネ....」シズクが口を開き掛けると ピンポンパンポンと言う音が聞こえ....

『門限の時刻になりました寮生の人は
直ちに寮に戻って下さい』

「あ....も....戻らないと....」
シズクが踵を返し掛ける。
「送って行こうか」ナイトがシズクに
声を掛ける。

「大...丈夫...すぐ....そこ....だから...」

シズクは三人に手を振って歩きだした。
一人になる短い道中シズクはさっきの
ハイネが告白を断る時の台詞を
思い出していた。

「俺好きな奴が居るんだ」そう言って
いたハイネの台詞が少しだけ胸に
刺さった様な気がした。
何故だろう..... これじゃあ.....まるで...
失恋したみたいだ 失恋?....何で?
私.... シズクが自分の胸の中の何かに
気付き掛けた時....ふいに自分の名前を呼ぶ
声が聞こえた。

「シズクちゃん」シズクが振り向くと
其処に居たのは青い瞳が印象的な溌剌とした若者だった。
シズクはその人物を見て目を丸くし
昔 言われた言葉が頭を過った。

『君は誰も好きになってはいけないよ
特別を作ってはいけないよ』

「ルークさん....」シズクが呟くと...
「久しぶりだねシズクちゃん会えて良かった...」その男ルークファーラムはにこやかにシズクにそう挨拶すると....
シズクに手を伸ばし....
「君を迎えに来たよシズクちゃん僕と
一緒に暮らそう!」そうシズクに
微笑みながら告げたのだった。

6/4/2024, 5:54:04 AM