駒月

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 一番最初に毒を呷ったのはいつだったろうか?
 おそらく十歳かそこらだった。
 師を殺した同業者に毒で始末されかけたところ、俺の体は毒を受け入れた。
 だが、全く効かないわけではなかった。手は震え、幻覚を見た。師が呼んでいる声が聞こえ宛もなく徘徊することも。
 毒に溺れれば多幸感を容易く得られることもあり、次第にのめり込み手放せなくなっていた。


「──師匠、師匠」
 弟子の声で眠りから覚める。
 上体を起こすが視界はぼやけていて、弟子の顔が昔焦がれた女に見えた。
「また酒飲んでただろ……夜更かしなんかしてるから起きられないんだぞ!」
 ああ、確かに昨夜は酒と共に毒を呷っていたな。
「顔色が悪いな師匠?って、いつものことか」
「ああ」
 まだ寝ぼけた振りをして弟子の手を引くと、腕の中にすっぽりと収まる。触れたところから伝わる体温、どくんと脈打つ心の臓。
 これが、生きている証。愚かしくも毒から抜け出せない俺の拠り所だ。
 現実から逃れた先……夢から覚めた処で待っている者が今、この腕に。
 ゆえに離さない、絶対に。



【現実逃避】

2/28/2024, 6:36:12 AM