綾木

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2024 4/16 (火)

『運命の人だと思ったんです。君の瞳に映るのは、私だけがいいと思いました』『奇遇だね、僕も同じこと思っていた』相思相愛、私と彼が赤面しながら微笑み合う所で、私達の会話は途切れた。目覚まし代わりの予鈴のチャイムで起こされて、そこで私は夢を見ていたのだと気が付く。私は重い瞼を無理やり持ち上げる。そして、窓側最後列の席から、黒板をぼうっと眺めた。素敵な夢だった。しかし感傷に浸る時間は短く、私の幸せは、あっという間に壊された。最後列だから教室全体が嫌でもよく見えてしまう。自分の席に各々戻るクラスメイトの中に二人、目の端に黒板付近で笑い合う男女を見た。こ、恋人繋ぎ。それはそれは、付き合ってないとしないくらいのがっしりとした。こころに針がちくり、どころではない。特大の穴が空いて、そのままひゅんと萎み、こころは床にことんと落ちた。眠気が一気に飛んで、心が痛んだ。先程まで見ていた夢は、「僕もそう思ってた」。ああなんてバカバカしいのだろうと私は赤面した。
彼の隣は私じゃない。私は彼のヒロインにはなれやしない。私は自ら、落ちたこころを上履きで踏みつける。諦めろって言い聞かせるために。

恋して10日で、私の想いは彼に届かぬままエンドロールを迎えた。どうしてこうも、私の恋はいつもフィクションなのだろうか。

#9 届かぬ思い

4/15/2024, 3:49:00 PM