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▶132.「心のざわめき」
131.「君を探して」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「なんだお前さんらは」
戸を叩いて出てきた初老の男は、訪問者を見て嫌そうな表情に変わった。
王城支給の制服を見て軍を連想したせいだろう。

「ナトミ村の村長とお見受けします。私は技じ「帰れ」
「なんだとじじ「あなたはちょっと黙ってください」

ヤンはジーキ課長を後方へ押し退けて、戸口にいる男に向き直る。

(軍がナトミ村にかけている圧力を考えれば仕方ない。でも諦めない)



ナトミ村村長との交渉は、こうして始まった。



「私たちは王城から来ましたが、軍とは関係ないのです」
「そんなもの信じられん」

ヤンは何とか理解を得ようと言葉を尽くす。

「ここに来た目的はですね「聞きたくもない」

村長が家の中に引っ込もうとするので、ヤンは慌てて戸を掴んで阻止する。


「どうしても知りたいことがあって来たのです」

めげない訪問者に、村長が鼻白む。

「出生記録だ。85年前に20歳だった____という人物がいるか調べたい」

いつの間に距離を詰めていたのか、
その瞬間を狙ったようにジーキ課長が口を挟んだ。
強い威圧感に村長が怯む。
ヤンが逃さず畳み掛ける。

「村に危害を加えるつもりは毛頭ありません。お願いします」
「…出生記録、それだけですな」
「はい」

「分かりました、応接室に案内いたします」






ヤンたちが応接室に通され、しばらく。

「お待たせしてますじゃ」
「問題ない」

村長が持ってきたのは、ナトミ村の出生記録であった。
「85年前で20歳ということでしたからな、念の為110年前までお持ちしました。何分古いものですから、なにとぞ」
「委細承知している。安心しろ」
上着の内ポケットから手袋を取り出して嵌めたジーキ課長は、資料に取り掛かった。その手つきは繊細そのもの。慎重に、しかし迷いなく優しく。無言で目を走らせる姿は静謐ですらある。

「彼は資料の専門家です。ご安心ください」
「あ、ああ…」

村長の様子に、ヤンは多少の信用は得られそうだと感じ、ホッと一つ息をついた。
そのため息を勘違いしたのか、村長は慌てたように言葉を継いだ。

「あいや、これは失礼を。改めまして私はナトミ村の村長をしておりますオラと申します。よろしければお名前をお聞かせ願えますか」
「こちらこそ失礼を。目的を果たせそうだと思ったら安心したのです。私は技術保全課のヤン、彼は軍事記録課課長ジーキです。ナトミ村の現状は力及ばずながら存じているつもりです。気になさらず」
「ヤン様にジーキ様、その寛大な心に感謝します。お茶も出さずに無礼を致しました。少し失礼を」

ひと言断った村長は席を立ち部屋の外に出ると、少しして戻ってきた。

「突然訪ねたのはこちらです、どうか構わず。それより、外のオリャン畑は実際に見るのは初めてですが、素晴らしいですね」
「見てくださいましたか、ありがとうございます」

(このままできればもう少し情報が欲しいな)
そんな思いでヤンが村長と世間話をしていたところに。

コンコン、とノックの音が響いた。
村長が立ってドアを開ければ、おそらく村長の妻だろう初老の女性が丁寧な所作でワゴンを運び入れる。彼女はヤンとジーキ、村長の前にそれぞれ茶を配膳すると一礼をし、ワゴンはそのまま置いて部屋を出ていった。ワゴンには茶入れ道具一式も乗せられている。

「お急ぎのこともあるでしょうが、まぁまぁ、まずは飲みなされ」
「いただきます」
ヤンは勧められるままにカップを手に取り口をつける。ジーキは茶の存在を確認すると、そっと遠ざけてから書類に戻った。

「おいしいです、ありがとうございます」

(さて、どうするか)

ここで急いではいけない。
ヤンは今一度自分を戒めた。





「おい、無いぞ」

それまで黙々と作業を進めていたジーキ課長から声が上がったのは、
ヤンが2杯目の茶を飲み始めた時だった。

「無いって。まさか、そんな」
「村長。移住記録、それから死亡記録はあるか」
「はっ、急いでお持ちします」

その緊迫した様子に、村長はすぐさま要求に応じてくれた。
しかし、どの記録にも____の名前は無かったのだった。

「村長、他に住人に関する名簿はないな?」
「はい、これが全てでございます」
「出生記録は、その人間の存在を証明する重要な書類だ。不記載は許されない。そうだな?」
「はい、村の歴史を表す大切なものです。代々厳重に管理しております」


「ヤン。____は、この村の者ではない」



廃棄済みとされた機械が動き、
いるとされていた人間がいない。
ヤンは、この一連の不可解な状況に心のざわめきを嫌というほど感じていた。






パチパチ…

今夜も人形たちは野宿で焚き火にあたっている。
特にナナホシは、人形のよりも炎に近い距離にいた。

「火の粉に当たらないように気をつけて」
「分カッテル」

ナナホシの、ひとつ星が少なくなった紺色の甲殻。
それを見ていると、人形の思考領域はざわ、ざわりと不意に波打つのだった。
人形は、そのざわめきが正常な状態ではないが、だからといって故障しているわけでもないということは理解していた。
しかし、その現象が一体何なのかは理解できなかった。

3/16/2025, 9:27:29 AM